九段のイタリア文化会館へ「エトルリアの世界展」を見に行く。ずっと以前のことだが、ここにイタリア語を習いに通っていたことなどを思い出しながら、黄金色の銀杏並木の坂を上る。空気の匂いがふいにさわやかになり、雨が降った後なのかと思う。
私が、なぜエトルリア美術に興味をもったかといえば、以前ローマのヴィラ・ジュリア博物館で、数々の出土品やエトルリアの美術の魅力にひきつけられた経験があるからだ。とくに寄り添う王と王妃の像を載せた「夫婦の陶棺」はすばらしかった。いまから2800年以上も前に地中海地域に登場し、古代ローマ文化以前のBC2世紀頃まで、エトルリアの文明はイタリア半島の中部に広く栄えたという。それから忽然として歴史の闇に消えていったという謎に満ちたいきさつにも、私の心をひく何かがあるのだけれど。
今日の展覧会は小規模だが、私はとくにBC6世紀頃の「古代の戦士像」や「女性像」の美しさにひきつけられた。どこかジャコメッティを想わせるようなほっそりとした、繊細な気品ある美しさで見飽きない。ほかにもエトルリアに特徴的ないくつかの石像や、納骨容器、装飾品などあり、ついに思い切ってとても重そうなカタログまで買ってしまった。そのために、できたら後で寄りたかった上野の「プーシキン展」にまで足をのばすのをあきらめた。残念だったが、でもほんとうは一度に二つの展覧会は見ないほうがいいから、ちょうどよかったのかもしれない。
そういえば、かの秋山さと子さんも、ヴィラ・ジュリアのエトルリア博物館の「小さなものたち」がお好きで、ローマへ行くたびに必ず訪ねられた由。もし生きておられたら、この展覧会もきっとのぞきにいかれたのではないだろうか…などとふと思う。
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