”絵葉書”

「SOMETHING 2」(鈴木ユリイカさんの編集・発行)が送られてきた。20人の女性詩人の作品が載っている。世代や地域や詩誌の枠を超えて、いろんな詩を書く人たちが集まってそのたびにメンバーも変えながら、今後も出していく予定であると聞く。同人誌の枠をこえようとするこのような試みは新鮮でもあり、今後もこの方法を生かしてよい詩誌を出しつづけていってもらいたいと思った。いままで名前を知らなかった方たちの作品に触れることもできるし、またよくその名を知っている方たちの作品を読み直せる喜びもある。
たくさん印象に残った作品のうち、今日は岬多可子さんの詩の一つを紹介したい。
           絵葉書
明るいオレンジ色の布に覆われている春
果樹の花が咲き
動物たちが 大きいものも小さいものも
草を食べるために しずかにうつむいたまま
ゆるやかな斜面をのぼりおりしている
家の窓は開いていて 室内の小さな木の引きだしには
古い切手と糸が残っている
みな靄がかかったような色をしている
冷たくも熱くもないお茶が
背の高いポットに淹れられて
それが一日の自我の分量
遠くからとつぜん 力のようなものが来て
その風景に含まれているひとは
みんな一瞬のうちに連れて行かれることになる
以前 隣家の少女を気に入らなかったこと
袋からはみ出た病気の鳥の足がいつまでも動いていたこと を
女は思う
春のなか
絵葉書は四辺から中央部に向かって焼け焦げていく
(静かでのどかな絵の中に孕まれている見えない恐怖感。どこかに現代という時代の影がさしているようで、それはまた、屈折した個人の意識下からのぞく不安の影のようでもある。説明のない分、いっそうイメージの表現力を感じさせる。)

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