神奈川近代文学館の閲覧室に県内発行の雑誌などを展示しているところがあり、ペッパーランド30号を寄贈しに行く。丘の上にひろがる手入れのいい花壇やバラ園はのどかな日を浴び、あちこちに画架を立てて画を描いている人たちがいる。文学館ではいま「日本の童謡 白秋,八十…そしてまど・みちおと金子みすず展」という催しをやっていて、雑誌「赤い鳥」誕生にはじまる童謡の黄金時代をつくった神奈川ゆかりの詩人たちを中心に、その周辺の人々…野口雨情、山田耕筰、成田為三やその他の人々も紹介されている。童謡の「兎のダンス」のレコードを見つけ、子どもの頃親が買ってきてくれたことを思い出したりして懐かしい気持ちになる。
絵本や本の装丁にしても、色調にしても、決して今では出せないものがあって、私たちは知らない間にとんでもない時間のクレバスを超えて来てしまったのだと思う。
静かな喫茶室でカップにたっぷり入った熱いコーヒーを味わってから、もう傾きかけた午後の陽の中のバラ園を通りすがりに眺める。谷戸坂を下りて元町を抜けて帰るまで、今日はめったにない小春日和の一日だった。
歩きながら(童謡というのは子どものための歌といわれているけれども、あれは表現の一つのジャンルで、もっと分化し、もっと個性化していける詩的表現なのでは)と思った。マザーグースの訳では、白秋の訳が今でも好きだ。現代人?が訳すとあのような詩的な妖しさが消えてしまうように思う。パソコンの時代には生まれない、原稿用紙の上に一字ずつ書いていく時間のなかで、はじめて生まれてくる訳ではないか、などと思う。言葉がキツネのように軽やかに化けていて、その裏側に見えないしっぽを隠している気配。それもたのしい身振りで。
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