先日、詩誌「鹿」100号が送られてきた。これは浜松の埋田昇ニさん発行の詩誌。
巻頭に小川アンナさんの作品が載っている。アンナさんは私の日ごろ敬愛する先輩
詩人で、この詩誌が送られてくるたびに、私はいつも真っ先にアンナさんの頁をさがす。
そのいさぎよい生き方にしっかり裏打ちされた彼女の詩の魅力を味わうためだ。
小川さんは1919年生まれとのことだが、その作品に流れる一貫した強さ,美しさ、
生きることへの深い省察や憧れなど、詩にたたえられたエネルギーの深さははまぶしい
ほどだ。このように自然体で書かれていて、しかもこのように「詩」であること。それは
小川さんの今までの生き方の修練と結びついているに違いない。
92年にペッパーランドから「母系の女たちへ」という本を出したのだが、その巻頭にも
小川アンナさんの作品をいただいた。今日はそのうちの一篇をご紹介したい。
緑が重たくて
卵の黄身のような月が地平に近く浮かんでいる
二階の窓の青葉の向こうに
生なまと月球の内にうごめく胎児の姿さながらの陰影を宿して
緑が重たくて
どこかで人が死のうとしているのではないか
自然は豊饒の中に死を蔵しているものだから
今宵
バラやジャスミンの香にまじって一きわ匂うのはみかんの花だ
火星の観察を了えてかえる子供らの声がする
木立のなかでは巣立ったけれど餌の足りない雉鳩の子
すすりなきのまま睡ってしまった
私の死ぬ時もきっと地球は重たすぎる程美しいのだろう
いや
核の爆ぜる時でも地球は美しいのだ
そのむごたらしさの想像に耐えぬもののみが声をあげる
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