ユベール・マンガレリの『しずかに流れるみどりの川』を読んだ。『おわりの雪』の著者が
1999年に小説第一作として発表したものという。『おわりの雪』は少年と父親の寡黙な
関係が、一羽のトビの飼育をめぐって、ひそやかに展開する物語だ。雪原を犬と歩き
続ける少年の心理が、雪の一片のように、読後心に溶けていく、そんな読後感があった。
大きなドラマは起こらないのに、マンガレリの文体は読むものの内部に消えがたい印象
を残す。
この『しずかなに流れるみどりの川』も、少年がその父親との貧しい暮らしのなかで、二人
で追い求めるガラスびんの植物への夢とか、草のトンネルをたどりながら、少年がひとり
育てる夢想の世界とか、その低声による語り口で、同じように読者の胸に深い香りのア
ロマを残す作品だ。知らず知らず、私は少年と同じ草のトンネルを歩み、室内に斜めに
さしこむ光のなかで、百個のガラスびんをのぞき、教会でローソクを盗み、神様に一緒に
お詫びしたのかもしれない。どこにもある暮らしというもののもつ語られない哀しさ、少年
の素朴な優しさは、とまどいながらも、私の戸口をたたく雨か風のように思われる。
『しずかに流れるみどりの川』 田久保麻理訳 (白水社)
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