村山 籌子 詩集

村山 籌子





〈あかい、やさしい はなもやうが〉



あかい、
やさしい はなもやうが、
とびとびに ついた
きものをきて、
あをい やはらかい
おびを しめた、
しづかな、おとなしい
をんなのこどもが、
そろり、
そろりと、
いつぱい とほる。
いつぱい とほる。
ほんとに わたしは
らんばうもの
おさらは こはすし
インクは こぼすし
時計は ころがすし
おはしは をるし
ばた\/ あるくし
むしは ころすし、
わたしは
せかいのらんばうもの。
わたしのふくが赤かつたら、
わたしのおびが青かつたら、
わたしは もうすこし
おとなしいのに。
らんばうもの。
おかあさまもおつしやつた。
おにいさまもおつしやつた。
そして、
お前は
いゝ子だとは、
けつして、けつして
おつしやらない。
もしも わたしが
おとなしい
女のこどもにうまれたら、
わたしは どんなに
うれしいかしら。
そして、わたしは
ほんとに、ほんとに
やさしさうに笑ひながら
おてんとさままで、
あるいてゆかう。
そろり、
そろりと、
あるいてゆかう。



アヒルサン ト オネコサン



 春ニナツタノデ、アヒルサンノオ母サンハ、アヒルサンニ洋服ヲカツテヤリタイトオモヒマシタ。ソコデ、洋服ヤヘ、真赤マツカナ洋服ヲタノミマシタ。
「アヒルチヤンヤ、一寸チヨツトコレヲキテゴラン、ヨク似合フヨ。マア、ナンテカワイイアヒルチヤンニナツタコト。」ト、オ母サンハ目を丸クシテヨロコビマシタ。ケレドモ、アヒルサンノオカホヲゴランナサイ。プクントフクレテ、オハナヲナラシ、今ニモナキサウナノデス。
「オ母サン、ワタシ、コンナ洋服大キラヒ。キマセン。」トイヒマシタ。オ母サンハ大変コマリマシタ。アヒルサンモコマツテシマヒマシタ。ナゼトイヘバ、アヒルサンハ赤イモノナラ、ドンナモノデモ大キラヒダカラデス。ケレドモ、シカタガナイノデ、ソノ洋服ヲキテ、小サクナツテ学校ヘユキマシタ。
「ヤーイ、赤金魚ガキタ。」ト第一番ニカラカツタノハオネコサンデシタ。オネコサンハ、アヒルサンノ赤イ洋服ガウラヤマシクテナラナカツタノデス。ナゼトイヘバ、オネコサンハ赤イモノナラ、ドンナモノデモ大スキダカラデス。アヒルサンハ、ハヅカシクテ穴ガアツタラハイリタイト思ヒマシタ。ケレドモ、ガマンシマシタ。
 アル日、アヒルサンガカゼヲヒイテ学校ヲヤスンデヰルト、オネコサンガキテイヒマシタ。
「赤金魚サン、オカラダハイカガデスカ。」
 アヒルサンハ、マツカニナツテイヒマシタ。
「オネコサン、ワタシハカゼヲヒイテ、真白マツシロナキモノヲキテネテヰマス。」
「マア、イケマセンネエ。ソレハソウト、アナタハ赤イ洋服ガチツトモ似合ヒマセンネ。アレヲワタシニカシテ下サイ。アナタニハ私ノ洋服ヲカシテカゲマセウ。」トオネコサンハアカダラケノ洋服ヲダシマシタ。アヒルサンハ大ヨロコビデ自分ノ洋服トトリカヘマシタ。ケレドモ、オネコサンハ似合ヒモシナイ洋服ヲキテ得意デスシ、アヒルサンハアカダラケノクサイ洋服ヲキテ大ヨロコビナノデ、タレデモ二人ヲミルト、ワラツタリ、ハナヲツマンダリシマシタ。タウタウ、シンセツナネズミサンガ、ソツトアヒルサンニイヒマシタ。
「アヒルサン、アナタノ洋服ハ一度アラツタラドウデスカ。」
 ヨクキノツクオイヌサンガ、オネコサンノ耳ノトコロデイヒマシタ。「アナタノ洋服、青ニデモオソメニナツテハイカガデセウ。」
 ケレド、アヒルサントオネコサンハ心ノナカデイヒマシタ。「ナンテ、イヤナオセツカイダラウ。」ト。
 コレニハワタシモホントニコマツテシマヒマシタ。



あひるさん と つるさん



 あひるさんは鳥は鳥でも羽が短いのでとぶことが出来ません。あひるさんの近所に、つるさんがゐました。二人はお友達でした。
 あひるさんは鶴さんの羽を見る度に一度貸してもらひたくて仕方がありません。でも、貸して下さいなどといふことは、あひるさんは恥しくて言へません。「鶴さん、君の羽は飛べるからいゝねえ。ぼく、君に、僕の持つてゐる万年筆をあげようか」とあひるさんが言ひました。鶴さんは大喜びで、「うれしいなあ、ほんとにれるのかい。」と言ひました。「うん、今あげる。」と言つて、あひるさんは鶴さんに万年筆をあげてしまひました。そして鶴さんは毎日、それを胸にはさんでゐます。でも「ぢやあ、君に、僕の羽を貸してあげよう。」とは言ひません。
 あひるさんは、又ある日、鶴さんに、時計をあげました。それからくつ、それから、鉛筆、色紙、お菓子、本、おもちや、あひるさんは持つてゐるものをみんな鶴さんにあげました。
 鶴さんはおうちにそれを持つて帰つて、机の中にだれにも言はないでしまつてをきました。鶴さんはどういふわけで、こんなに色々なものをあひるさんがくれるのだか、分らなかつたので、心配だつたからです。でも子供でしたから、矢張やつぱりくれるものはもらはずには居られなかつたからです。
 すると鶴さんのお母さんが、その引出しを開けて、中にこんな物が一杯はいつてゐるので驚いて鶴さんに聞きました。鶴さんはほんとのことを話しました。鶴さんのお母さんは、早速あひるさんのお家へ行つて、あひるさんのお母さんに、そのことを話しました。
 あひるさんのお母さんは、あひるさんを呼んで、どうして、こんなに沢山鶴さんへお母さんにはだまつて、ものを上げたのかと聞きましたが、あひるさんは顔を真赤まつかにしてどうしても言ひません。おしまひに、たうたう小さな声で言ひました。「私は、鶴さんの長くて強い羽を貸してもらつて飛んで見たかつたからです。鶴さんに、好きなものをあげたら、鶴さんが、僕に、その羽を貸すだらうと思つたからです。」あひるさんのお母さんは鶴さんのお母さんに、そのことを申しました。
 鶴さんのお母さんはあひるさんが可哀相でなりませんでした。それで鶴さんのお父さんは航空飛行会社の社長さんですから、近いうちに、あひるさんをその飛行機にたゞでのせて、高い所を見せてあげようと思ひました。
 何故なぜといつて、どうしても、生へてゐる羽を借すなんてことは出来ないからです。あひるさんは子供ですから、そんなことが分らなかつたのです。



あひるさん と 時計



 何でもかでも他人ひと真似まねをしたがるあひるさんがありました。まだ子供でしたから無理もありませんが、大きなあひるさんたちが時計を持つてゐるのを見て欲しくてたまりません。お父さんにお願ひしました。
「お父さん、時計を買つて下さい。」
 お父さんは言ひました。「もつと大きくなつたらにしよう。」
 あひるさんは、すぐおばあさんのところへ行きました。
「おばあさん、ぼくに時計を買つて下さい。」
 おばあさんはあひるさんをよく見て言ひました。
「お前はまだ小さいから大きくなつたらにしませう。」
 あひるさんは涙が出て来ました。じだんだをふまうと思ひましたが、すぐに、大きな虫目鏡むしめがねをおばあさんにわたして言ひました。
「おばあさんは目が悪いから、これでよく見て下さい。僕はとても大きいんだから。」
 おばあさんは虫目鏡をかけてあひるさんを見直しましたら、あひるさんはもうお父さんのやうに大きく見えました。おばあさんは成程なるほどと思つて財布からお金を出してあひるさんにやりました。
 あひるさんはそれを持つて時計屋さんに行きました。ところが、あひるの時計屋さんの品物は、人間が使ひ古した時計ばかり売つてゐて、新しい時計などは一つだつてないのです。何故なぜつて、あひるの職工さんたちに、時計のあのややこしいぜんまいや機械がこさへられると思ひますか?
 あひるさんは何にも分らないので、よりによつてよく光つたのを買ひました。ニツケル製で、値段と言へば人間世界なら二円五十銭の品物で、振るとガタガタ音のする大変な代物です。ですけれども、あひるさんは大よろこびで、ポケツトから時々取り出して眺めて喜んでゐました。
 すると或日あるひ、七面鳥さんから手紙が来ました。
「お天気がよいから旅行に行きませう。僕達ぼくたちは小さくても方々旅行して色々なことを勉強しなくつちやならない。あひる君、きつと来たまへね。僕たち二年生は全部行くよ。あす朝、きつかり七時に鳥山とりやま駅を出発だ。」
 あひるさんは鳥さんですから生れつき旅行が好きで、その夜はうれしくて眠れません。
 朝、三時頃から起きて時計とにらめつくらをしてゐました。七時前になりましたから飛ぶやうに駅へかけつけました。
 ところが、お、お、汽車はとつくに出て行つて残つてゐるのは煙ばかり。あひるさんは自分の時計を出して駅のとくらべて見ましたら三十分おくれてゐましたとさ。
「何といふ時計だ※(感嘆符二つ、1-8-75)」とあひるさんは泣きましたが、もう、仕方がありませんでした。



あひるさん と にはとりさん



しんせつなあひるさんのおかあさん


 にはとりさんが、あひるさんのところへあそびにゆきました。
 あひるさんは、鉛筆を五本もなくしてしまつたので、こまつてゐます。

 あひるさんは、にはとりさんにいひました。
ぼくは、どうも鉛筆は、お池のなかにあるやうな気がするよ。」とお池のなかへとびこんでさがしはじめました。

 にはとりさんはいひました。
「僕はどうも、畑のなかにおつこちてるやうな気がするよ。」と畑をほじくりかへしました。
 けれども見つかりませんでした。

 二人は一日中、ほじくつたり、もぐつたりしたので、どろだらけになりましたので、あひるさんのお母様がお風呂にいれてくださいました。
 そして、こんなにきれいになりましたので、ごほうびに鉛筆をくださいました。

あひるさんのおたんじやう日


 あひるさんのお母さんは、あひるさんのおたんじやう日に、にはとりさんと、にはとりさんのお母さんをごちさうによびました。

 食堂にはいつてごちさうを食べやうとしますと、急に、停電でまつくらになりました。

 一時間ばかりして電気がついて、テーブルの上を見ますと、沢山あつたごちさうは影も形もなくなつてゐます。あひるさんとにはとりさんがくらいうちに食べてしまつたからです。

 あひるさんのお母さんと、にはとりのお母さんは、がつかりしましたが、しかたがありませんので、紅茶だけで、がまんしました。

わがままをいつたばかりに


 あひるさんはお母さんに、すてきな帽子を買つていたゞきましたが、気に入りません。学校へゆくのにこのとほり、お帽子を羽根の下へかくして行きました。

 にはとりさんは あたらしいおくつを買つていただいたのに、「あんまり新らしすぎてはづかしいや」といつて、カバンの中へねじこんで、はだして学校へ。

 学校へ行きますと、二人は、頭と、足がいたくなりました。先生は、すぐ二人を自動車にのせて、おうちへ送りとゞけて、おつしやいました。
「もう二三日は、おとこの中でぢつとしてゐないといけません。」

 二人は、ベツドの中で、なきました。けれども、いたしかたございませんでした。

プールへゆきました


 あひるさんと にはとりさんは あつくて たまらないので 黒と 赤との水着をきて プールへ 出かけました。

 あひるさんは 水泳の選手なので 大とくゐになつて 水中めがねなんぞ かけたりして およぎまわりました。
 にはとりさんは こわくて水の中に はいれません 高い木のてつぺんにとまつて あひるさんの泳ぐのを見ました。

 そのうちに あひるさんは 水の中にあんまり長くゐたので さむくなつて ふるへだしました にはとりさんは 高いところにゐたので 暑くて 汗がながれました。

 それを見た しんせつな プールの番人のがてふのおぢさんが 二人をボートにのせて くれましたので 二人は やつと寒さと 暑さがとまつて ゆくわいに あそびました。

おくびやうなあひるさん


 あひるさんが、ある日、お母様から頂いたおいしさうな、大きな桃を持つてゐますとうしろで、「あひるちやんや」といふ声がしました。

 あひるさんは、うしろをふりむいて見ると、自分より もつともつと大きなあひるさんがつつ立つてゐますので、おどろいて逃げました。桃をとられると大変だと思つたので。

 あひるさんは、にはとりさんのおうちにはいつて、にはとりさんと二人で、戸を内側からおさえて、桃をポケツトの中へかくしました。

 そして、窓から外をのぞいてみますと、それはあひるさんのお父さまだつたのです。まあ何て、あひるさんはあわて者なんでせう。

あひるさんとにはとりさんはのんきもの


 あひるさんと にはとりさんがみえなくなりました。おかあさんたちは はうばう さがしまわりましたけれど どうしても みつかりません。

 にはとりさんと あひるさんのおかあさんは「たんてい」の犬さんのところへ行つて さがしてくれるやうに たのみました。

「たんてい」の犬さんは さつそくやつてきて おはなをくん/\ならして さがしましたが みつかりません。

 虫めがねでうちの中をみまわして 犬さんは申しました。「なるほどなるほど ここに足あとがちやんとあります。御心配いりません。お二人はたぶん この戸棚とだなの中で ひるねをしてゐらつしやるんでせう。」
 そして、まつたく犬さんのいつたとほりでございました。

どろだらけののりまき


 にはとりさんと あひるさんは お母さんに おごちさうをこしらへていたゞいて 野原へあそびに出かけました。

 とちうで 何が気にさわつたのか 二人は急につむじをまげはじめました。一方が走り出すと 一方はのろのろ歩いたり 一人が左を歩くと 一人は右を歩いたりいたしました。

 やつと野原について おべんたうを たべることになりましたが 二人は おごちさうを見られると しやくだと思つて バスケツトを手でかこつて ひじをつツぱりました。

 すると あんまり ひじをつツぱりすぎたので 二人のバスケツトは一どにころ/\と ひつくりかへりました。おごちさうは 両方とも 同じのりまきだといふことだけわかりましたが おなかがすいてゐても たべることが出来ません。
 なぜつてどろだらけになつちまひましたもの。

あひるさんとにはとりさんはなかよし


 お三時に紅茶をのみました。にはとりさんはちびちびと。あひるさんはがぶがぶと。これは二人の生れつきだから、どうにもしかたございません。

 あひるさんのお茶わんは、すぐからつぽになりました。あんまり早くのみすぎて、まだまだ足りません。

 それを見たにはとりさん。まだ一杯あるので、半分だけ、わけてあげました。

 あとで、にはとりさんが砂遊びをしたくて、
「うらの庭へ砂いじりにゆかうよ。」
といひましたら、あひるさんは水あそびがしたかつたけれど、
「うん いゝとも。」といつて、うらの庭へゆきました。ふたりは今日は朝から、とても仲がよろしいのです。

いじめつこの犬さん


 あひるさんとにはとりさんに、このごろひどくこまつたことがあるのです。それは、まい日、がくかうに行く途中の曲り角に、犬さんがゐて、いぢわるをするのです。

 二人は、こわくてしかたがないので、とほまわりをして、がくかうにゆきましたが、矢張り犬さんが学校の門にかくれてゐて、あかんべをしたり、とびかかるまねをしたりします。

 犬さんの家は、せんたくやで、お父さんの犬さんは、毎日にはとりさんと、あひるさんのうちに、御用ききにまゐります。

 二人ははずかしくてしかたがありませんでしたが、犬さんのお父さんに、「犬さんにいじわるをしないやうにいつて下さい。」と、たのみました。
 せんたくやの犬さんは「はい、はい、よろしゆうございます。」といひましたので、二人は大変安心いたしました。



あひるさん の かみのけ



 あるところに、大へんおとなしい一羽のあひるさんがありました。ちひさくてまだ手が頭にとゞきません。毎朝髪をゆつてもらはねばなりませんでした。
 あひるさんには、おぢいさんだけしかないので、おぢいさんに髪をゆつてもらふのでしたが、おぢいさんは男で、おまけに大へんなとしよりでしたから、あひるさんの髪をあまりハイカラにはゆつてやれないのでした。
 毎朝、あひるさんは鏡のまへで、横をむいたり前をむいたりして髪の形をながめましたが、いつでも油で髪がかたまつて、頭のてつぺんの所できつく結はへてあるので、目をしばたたくこともできないくらゐ引きつつてゐるのでした。
 ある日、あひるのおばさんが、たづねてきて、大笑ひに笑ひだしました。
「なんてまあ、変てこな髪だこと。」しかし、その時、あひるのおぢいさんが、ぷくんとおこつたやうな顔をしたので、
「私が、うまくゆつてあげませう。」と言ひかけましたが、そのまゝ、それをのどのおくへひつこめてしまひました。かわいさうなあひるさん。
 あひるさんは、それからといふもの、ごはんもろくに食べられないくらゐに、悲しみました。
 あひるさんのおぢいさんは、一生けんめい考へて、こてをかつてきて、髪をちゞらせてやりました。
 これで、やつと、あひるさんは、ハイカラになりました。それで、ごはんは前の二倍くらゐたべるやうになりました。ずいぶん運のいいあひるさん。



あひるさん の くつ



 ある時、きりぎりすさんが、靴屋くつやさんをはじめることになりました。
「どんな形の靴でもおのぞみしだいにつくります。」といふ看板を見てやつてきたのが、あひるさんです。
 きりぎりすさんはあひるさんの足をはかつて、夜もねないで靴を一足こしらへて、あひるさんのところに持つてゆきました。
 あひるさんは大変おしやれでしたから、自分の足の恰好かつかうのことはたなへあげて、きりぎりすさんのこしらへてきた靴を一目見ていひました。
「まあ、こんな変な恰好の靴は牛さんにでも買つてもらふがいゝ。」きりぎりすさんは大変こまりましたけれども仕方がありません。しほ/\とその靴を持つてかへりました。そして、それをお店へならべておきましたが、あんまり不恰好なものですから、だれも買つてくれません。おしまひには、そのうへへほこりがつもりつもつて、たう/\どこに靴があるのやらわからなくなりました。
    ×      ×      ×
 それから、三年ばかりたつたある晩に、あひるさんが自動車にのつて、きりぎりすさんの店のまへをとほりかゝりました。あひるさんは自ママ車の運転手になつたばかりでしたから、あんまり上手に自ママ車を動かすことができません。あつ、とおもふ間に、きりぎりすさんの店の中へ自動車がはいつてしまひました。そしてその拍子に埃の中にうづまつてゐた靴が飛びだしました。この物音で、きりぎりすさんが出てきました。そしていひました。
「この靴がお入用ですか。」あひるさんは、仕方なくまうしました。
「さうです。これを下さい。」
「ほんとに、丁度よくあなたの足にあひさうです。」ときりぎりすがいひました。あひるさんは顔を赤くしました。きりぎりすさんは、三年間ごろ/\してゐた靴がうれたので、どんなにうれしかつたでせう。けれども、その靴を、初めに注文したのが、このあひるさんだつたといふことに気がついたのはそれから一週間あとのことでした。



〈あめがふつてくりや〉



あめがふつてくりや
  「ものまね
  みまね。
  ものまね
  みまね。」
と なき なきにげる。
  なき なき にげる。
あめがやむまで
  「ものまね
  みまね。
  ものまね
  みまね。」
と なき なき にげる。
  なき なき にげる。



あめくん



「シト シト シト シト」
と ちいさな おとをさせて あめくんが やつてきました。
「スル スル スル」
とじどうしやが はしつてきましたが、あめくんに であふと すつかり ぬれてしまひました。
「パカ パカ パカ」
と おうまが かけてきましたが、やつぱり あめくんに であふと びつしより ぬれてしまひました。
「おもしろい おもしろい」
と あめくんは おほよろこびで、こんどは すこし おほきな おとで ふりはじめました。
「ビチヤ ビチヤ ビチヤ ビチヤ」
 すると こんどは おとこのこが あまがつぱをきて かさをさして、やつてきました。
 あめくんは かさと あまがつぱのために どうしても そのおとこのこを ぬらすことができません。
「ザア ザア ザア」
 おこつた あめくんは、ちからいつぱい ふりましたが、おとこのこは へいきで あるいてゆきます。
「ザア ザア ザア」
 あめくんが あとをついてゆくと、おとこのこは うちのなかへ はいつてしまひました。
「おかあさん、ひどいあめですよ」
と おとこのこ の こゑが きこえました。
「ピチヤリ ピチヤリ ピチヤリ」
と あめくんは ガラスまどを たたきました。
 あまがつぱを ぬいだ おとこのこ と ちひさな おんなのこが ガラスまどの ところへきて いひました。
「あめくん、こんにちは」
 おこつてゐる あめくんは へんじをしないで ただガラスまどを たたきました。
「ピチヤリ ピチヤリ ピチヤリ」
「こんにちは。ごくらうさま。きみはどこからきたの」
と おとこのこが いひました。
「とほい にしのはうから。ピチヤリ ピチヤリ」
と あめくんが こたへました。
「ごきげんよう。おやすみなさい」
と ちひさなおんなのこが いひました。
 あめくんは きげんが なほつたので
「おやすみ」
と いつて、やねのうへで、あさまで
「シト シト ピチヤ ピチヤ」
と しづかに うたを うたつて、あさになると とほくのひがしのはうに いつてしまひました。



あめやさん



きみ には ボンボン、
きみ には チヨコレート、
きみ には キヤンデイ、
きみ には キヤラメルをあげよう、
さあ
いくらでも
もつてゆきたまへ。
すつかり、
もつてゆきたまへ。
ぼく は、まだ、
やまほど
やうふくのしたに
かくしてゐるからね、君。



いぬさん と おねこさん



ゑほん


 いぬさん と おねこさん が ストーヴ に あたりながら ハイカラな ゑほん を みて ゐました。

 いぬさん が まうしました。
「ぼく は なぜ こんな ハイカラな 犬 に うまれなかつたんだらう。このちぢれた毛 は どうだ」と じぶん の みじかい毛 を ひつぱりました。

「ああ あたし は どうして この ペルシヤねこに うまれなかつたんでせう。この 大きな 目※(感嘆符二つ、1-8-75)」と ゑほんの 猫を みて おねこさん は まうしました。
 二人 は がつかりして しまひました。が、ストーヴ の 火 が あんまり あたたかかつたので ねむつて しまひました。
 おしやうがつ ぐわんじつ の ばん のことで ありました。

さんぽ


 おねこさんが散歩してゐました。

 風が吹いてきて、おねこさんのかたかけが飛ばされました。かたかけは川の中へ。
 そこへ犬さんがやつてきて、二人で川のそこにしづんでゐるかたかけをみつけました。

「いぬさん。あなたは水およぎができるんでせう? とつて下さい。」とおねこさんがいひました。いぬさんは、
「こんなにさむくちやあ、とれない。なつになるまで待たう」と、いひました。

 それを見てゐた、あひるさんのおぢさんが、水の中にとびこんで、とつてくれました。
 二人は、あんまりうれしくて、おれいもいはずに家にかへりました。
 あひるのおぢさんは、ぶつ/\おこりましたが、のんきなおねこさんといぬさんは、それに気がつきませんでした。



犬さんと、くもさんと、かへるさん



 犬のおばあさんは一人で暮してゐましたが、一人で暮らすのは、大変淋しうございました。お仕事をしてゐても、夜ねてゐても、一人でゐるのはつらいことでした。それで、仲間をさがすことにして、新聞へ広告を出しました。広告文はかうでした。

 わたしハ犬デスガ、年ヲトリマシタノデ、一人デクラスノハ、サミシウゴザイマス。ドナタカ、私ノうちヘ一シヨニ住ンデ下サル方ハアリマセンカ。タヾシ、私ノウチニハ、オ皿トナイフトフオークガ一ツヅヽシカアリマセンカラ、オイデ下サル方ハ、ドウゾ、ゴジブンノオ皿ト、ナイフト、フオークヲモツテイラシツテ下サイ。イツモ、オイシイゴチサウヲタベサセテアゲマス。
東京、犬小屋町 犬山クロ子

 この広告文をみて、お皿と、ナイフと、フオークを持つてやつて来たのがくもさんでした。くもさんは二階に住むことになりました。おばあさんは大変よろこびました。けれども二人目にやつて来たのがかへるさんでした。かへるさんは、あんまり急いで来たものですから、お皿と、ナイフとフオークを持つてくるのを忘れました。
 おばあさんも、くもさんも、大変こまりました。すると、かへるさんが言ひました。
「おばあさん、くもさん、ちつともお困りになることはありません。私は、皆さんがめしあがつたあとのお皿を借して頂きますから、大丈夫です。」
 すると、くもさんと、おばあさんは手を打つて、胸をなで下しました。
「それは、全くいゝ考へです。」と。
 三人は仲よくくらしました。



兎さんの本屋とリスの先生



 あるところに大変そそつかしい本屋さんがありました。うさぎさんです。ある日、お店へ本が来ましたので、フロツクコートを着て、鼻眼鏡をかけて、ステツキを持つて、その本を小脇こわきにかかへて(人間から見るとおかしいですが、兎の本屋さんはこんなものです)売りに出かけました。
 森の入口で、リスさんに会ひました。大変悧口りこうさうなひげを生やしたリスさんですから、本を買つてくれるだらうと思つて「リスさん、本を買つて下さい。私はりつぱな本屋さんです」といひました。リスさんは、兎さんがフロツクコートといふ服を着て、鼻眼鏡をかけてゐるし、それにステツキをついてゐるので、成程なるほどりつぱな本屋さんだと思つて「ぼくは医科大学の先生です。本を買ひます。今、お金を持つてゐませんから、うちまでついて来て下さい」といひました。
 兎さんは大よろこびで、リスさんのうちへついて行きました。
 遠い/\おうちなので、うちへついた時はもうまつくらな夜になつてしまひました。門口まで来たので、リスさんはおうちへはいつて行つて、お金を持つて来て、兎さんにお払ひをしました。
 ところが、その時ちやうど六時が打つて、リスさんの村では、夕方の六時カツキリに電気がつくのです。電気がつきました。
 リスさんは今買つたばかりの御本を、大きな/\英語や、ドイツ語や、ロシア語の字引を積みあげてあるお机の上でひろげました。
 表紙には「尋常小学一年生読本」と書いてありました。
 リスさんは「僕は医科大学の先生だのに※(感嘆符二つ、1-8-75)」といつて、大変おこりました。そして兎さんをおつかけて行つてつつ返してやりました。兎さんは大変恥しくなつてかういひました。
「あなたはお子さんがありますか」
 リスさんは答へました。
「小学一年の子供がひとりあります」
「それでは、これをそのお子さんに上げて下さい。お金はいりません」といつて逃げ出しました。
 リスさんは兎さんが大変気の毒になつたので、あくる日、お金をとどけてやりました。
 兎さんは、ベツドの中でうん/\うなつてゐました。なぜといつて、兎さんは、昨夜ゆふべあんまり急いで逃げたので、小さな川におつこちて、指の先を怪我したのです。
 リスさんはお医者さんでしたから、兎さんの指にヨードチンキを塗つてあげました。
 兎さんはリスさんと、それから大変仲よくして、新しい本が来ると、いつでも十銭くらゐづつ安くしてあげましたさうです。



うさぎさん と おほかみさん



 うさぎさんが散歩してゐました。もうなつになりかけでしたから、きれいな花が咲いてゐました。そしていゝにほひがしてゐました。
 一人で歩くのは、うさぎさんには、初めてです。なぜといつて、うさぎさんは小学校の二年生でしたから。一人だつたので、とてもこわかつたのでした。うさぎさんは大変背がひくいでせう。ですから、鼻の先に見えるものは、草と、葉ばかりでしたから、ずつと前や、うしろから、何が出てくるか、ちつともわかりません。
 ところが、うしろのはうで、がさがさといふ音がしたのです。うさぎさんは胸の中がひつくりかへるほどびつくりしました。
 がさがさいふ音が、とてもひどく、ちかくなりました。そして、うしろをふりむいてみましたら、毛だらけの、目が二つあつて、口の大きなものが、ちらりと見えました。
 うさぎさんは、
「どうぞ、ごめんなさい。わたしはとてもよい子ですから。」と いはうとおもひましたけれど、声が出ませんでした。それで、どんどん逃げ出しました。
 すると、うさぎさんのあとから、おほかみさんが一匹とび出して来て、うさぎさんをおつかけました。
 うさぎさんは、どんどんかけました。おほかみさんもどんどんおつかけました。
 うさぎさんは、おしまひにあしがうごかなくなつて、たほれました。おほかみさんが、うさぎさんをつかまへました。
「ぼくだよ。うさぎくん。」とおほかみさんがいひました。よく見ると、学校で同じ級のおほかみさんだつたのです。
 うさぎさんは、どんなにうれしかつたでせう。それからのち二人は、とても仲のよいお友達になりました。



うさぎのくだものや



もぅりの
もぅりの木のかげで、
みゝながうさぎのくだものや。
つぶのそろつた
さくらんぼ、
まつかであまい
大西瓜おほずいくわ
やすうり
なげうり
大べんきやう。
かわいいぼつちやんは
じてんしやで、
きれいなおぢやうさんは
かごもつて、
さあ さあ
いらつしやい、
おほやすうり。

めかたはたつぷり
まちがひなし、
どこのみせより
おほやすうり。



〈美しい王子様のおせなかに〉



美しい王子様のおせなかに
 まつかなマントが
  ゆれてゐるかな


美しい王子様のおん馬車の
 馬が青い空を
  ながめてゐるかな



ウミベノマヒゴ



 ウミベヘツイタ時ニハ、カイガンノスナハ人デマツクロニナツテイマシタノデ、オ母サンハヨシヲサンニ、
「マヒゴニナラナイヤウニネ。ソレカライクラ、オモシロクツテモ、アンマリナガク水ノ中ニハイツテヰルト、カラダニドクデスカラネ。」トイヒマシタガ、ヨシヲサンハモウウミノ中ヘトビコンデシマヒマシタ。
 ソノウチニ、オ母サンハネムクナツタノデ、パラソルノ下デ、グツスリネムリコミマシタ。
「マヒゴダ、マヒゴダ。」トアタリガキウニサワガシクナツタノデ、オ母サンハ目ヲサマシマシタ。
「マヒゴデス。オココロアタリノ方ハアリマセンカ。」トカイタ大キナハタヲモツテ、小サナ男ノ子ノ手ヲ引イタカイスイヨクジヨウノバン人ガムカフカラ歩イテ来ルノガミエマシタ。
 ソノマヒゴノヤウスノヘンテコリンナコトトイツタラ※(感嘆符二つ、1-8-75) 水ノ中ニムヤミト長クツカツテヰタトミヘテ、アタマノ毛ハ一本、一本、サカダチ、カホモカラダモマツサヲ、クチビルハムラサキ色。ヨシヲサンノオ母サンハ、オカシクナツテ
「アラ、マア、何テヘンナオ子サンダラウ、マルデ、カツパノオバケミタイダワ。」ト言ヒマシタ。マハリノ人タチハミンナワラヒマシタ。ホントウニ、ヨシヲサンノオ母サンノ言ツタトホリナンデスモノネ。デモ、ヨシヲサンノオカアサンハ、ソノマヒゴヲドコカデ見タコトガアル子ダト思ヒマシタ。ソシテ、
「ハテナ、ドコノオ子サンダツタカシラン。」ト、シキリニアタマヲヒネクツテ考ヘマシタ。
 アツイオ日サマノ光デ、マヒゴノカラダモアタマモ、アタマノケモヤツトフダンノ通リ、人間ノ子ドモラシクイキイキトシテキマシタ。ヨシヲサンノオ母サンハキウニトビ上ツテ、
「アラ、アラ、誰カト思ツタラ、アナタハヨシヲサンヂヤナイノ。ホントニ、ドウモ、オサワガセシテスミマセンデシタ。アリガタウゴザイマス、アリガタウゴザイマス。」トバンニンニオレイヲ言ツテ、ヨシヲサンヲウケトリマシタ。マハリノ人ハトテモオカシカツタノデスケレド、ヤツトガマンシテワラヒマセンデシタ。



オホサウヂ



 ブチ ト シロハ タラウサンノ ウチニ カハレテ ヰル コイヌデス。
 アルヒ タラウサンノ ウチデハ、ナニカ オホソウドウガ、モチアガリマシタ。
 ヨガ アケルト ブチト シロハ オユニイレラレテ ゴシゴシト アラハレマシタ。
「アア キモチガ ワルイ。」
ト シロガ ウナリマシタ。
「ハヤク イツテ、ドロノ ナカニ コロガラナクチヤ タマラナイ。」
ト ブチモ ウナリマシタ。
 ドロノナカニ コロガツテヰルト、ナニカ ウチノナカデサワガシイ オトガ シハジメマシタ。
「ヘンダ。」
「ウン、チヨツト ノゾイテミヨウ。」
 二ヒキノ コイヌハ ダイドコロノ トノスキマカラ ナカヲノゾキマシタ。
 ドン ドン、バタ バタ、ゴシ ゴシ。
 ハイタリ、タタイタリ、コスツタリ、ナカハ タイヘンナサワギデス。
「コレハ イカン。グヅグヅ シテヰルト、マタ オユニイレラレルゾ。」
 二ヒキハ トンデニゲマシタ。
 マドノ シタニ ニゲテ、コレデ アンシント ネコロンダ トタンニ、
 パタ パタ、パン パン。
 アタマノウエデ オホキナ フトンガ マドノトコロデ、パタパタト アバレテヰマシタ。
 カゼニ フカレテ、ゴミハ ウエキノ トコロマデ トンデキマス。
「ココモ ダメダ。オモテヘ ニゲヨウ。」
 オモテニハ タタミガ ズラリト ナラベテ、タテカケテアツテ、
 トン トン、バタ バタ。
ト ホソイ タケノボウデ ブタレテヰマシタ。ソシテ イツモハ シロヤ ブチガ チヨツト アガツテモ タイヘンニ シカラレル ソノタタミカラ、クモノヤウナ ホコリガ、イツパイニ マヒアガツテヰマス。
「コレハ タマラン。」
「ニゲロ、ニゲロ。」
 二ヒキハ ウラノ イタベイノ カゲニ ニゲテキテ、ハア ハア ト クルシイイキヲ ツキマシタ。
「アア オドロイタ。」
「イツタイ ナニゴトガ オコツタンダラウ。」
「コレガ センソウト イフモノカモ シレナイ。」
「ウン、テキガ セメコンダノカモ シレナイ。」
 シユウ シユウ、ジヤブ ジヤブ。
 タイヘンデス。ドコカラ アラハレタカ、ホースノ ミヅガ イタベイニ トンデキマシタ。
 二ヒキハ ウラノアキチヘ ニゲマシタ。
 スルト ソコニ トナリノ ポチガ ノンキナカホデ ネソベツテヰマシタ。ポチハ トシヨリノ イヌデス。
「ポチサン、センソウダ。」
「テキガ セメテキタンダヨ。」
 スルト ポチハ ボンヤリシタ メヲアケテ
「ナアニ、アレハ オホママウヂダヨ。アレガ ハジマツタラ ココヘキテ ネテヰレバ イインダ。ユフガタニナルトスツカリ シヅマルヨ。イチネンニ 二ドグラヒアルヨ。ヤツカイナモノサ。」
 ソレデ 二ヒキノ コイヌハ アンシンシテ、ポチノ ヨコデ ネムリマシタ。
 ユフガタ メガサメテミルト、オホママウヂハ モウドコヘイツタカ カゲモカタチモアリマセンデシタ。



〈おかみさん〉



おかみさん。
とりのおかみさん。
 ぼうしかぶつて
 ぶら\/
 かごさげて
 なにをかひに
 どこへゆきます。
坊ちやん。
坊ちやん。
 ぼうしかぶつて
 ぶら\/
 かごさげて
 むかふの市場へ
 卵かひにゆきます。
 自ママ車の卵かひにゆきます。
 電車の卵かひにゆきます。
 飛行機の卵かひにゆきます。
 おはなしの卵かひにゆきます。
 はい。さやうなら。



お鍋とお皿とカーテン



 これは せんせいが 一年生に してくださつた おはなしです。

 あるおうちの お台所に お鍋とお皿とカーテンが くらしてゐました。
 ところが おなべも お皿も カーテンも 毎日 おなじおしごとを してゐるのが、いやになつて、お台所から にげだすことに しました。
 お鍋と お皿は さきにでぐちの ところへ いきましたが、まつても まつても カーテンが きません。
「はやくこないと 二人で行つてしまふわよ。」お鍋と お皿は いらいらして いひました。
「だつて、わたし、いくら あし で ふんばつても、あたまが てつのぼうに くつついてゐて、はなれないのよ。」とカーテンはなきながら、あたまをてつのぼうから、はづさうとしました。お鍋とお皿も、カーテンの すそをもつて、うんさこら うんさこら とひつぱりましたが、だめです。
 そこで、お鍋とお皿の、どつちかが カーテンをよぢのぼつていつて、てつのぼうを はずすことに なりました。
 お鍋と お皿が じやんけんをして、まけたはうが のぼつてゆくことに しました。
 お鍋が まけました。お皿は下で 大きな口をあけて、けんぶつして ゐました。
 まけたお鍋は カーテンの わきばらを よぢのぼりました。
 ところが お鍋が よぢのぼるにつれて、カーテンはよこはらが くすぐつたく なりました。そして とう/\ がまんが できなくなつて、
「あゝ、くすぐつたい。」といつて、お鍋を いきなり ふりとばしました。
 お鍋は からんころん、からんころん、ころ/\、ころ/\と、台所の むかふの はしまで、ころがつて行きました。その かつかう が、とてもおかしかつたので、カーテンは 「アハハハハハ」と 大わらひしました。
 お皿は わたしだつたら、こな/″\ に こはれるところだつたのに、「まあよかつた。」と むねを なでおろしました。
 お鍋は もと/\ たいへんな はづかしがりやさんでしたから、カーテン に わらはれたので、かほを まつかにして、とだなの 中へ かけこんだきり、いくら、カーテンと お皿が、よんでも でてきません。
 こんなわけで、お鍋とお皿を カーテンは にげださないで、いまでも お台所で、やくにたつてゐます。もし にげだしてゐたら、くづやさんに ひろはれて、かなしい みのうへに なつてゐたでせう。



お鍋 と おやかん と フライパン の けんくわ



 よう子ちやんはお台所が大好きでした。なぜといつて、お料理のにほひはほんとにおいしさうなんですもの。それに、おさじや フオークや お茶碗や お皿などがカチン、カチン、チヤラ、チヤラと可愛いい音をたててゐます。それからもつと、色んな音がします。
 お鍋の中ではクツタ、クツタ、クツタとお湯のにたつ音がしますし、ジヤ、ジヤ、ジヤ、ジヤと水道がいきほひよくながれるし、バツタン、バツタンと戸棚をあける音もきこえます。よう子ちやんは色んな音をきくのも大好きです。
 或る日のことお台所ではお料理づくりにお母さんがいそがしく働いてゐました。そのうちにお母さんはお鍋と、おやかんと、フライパンを火にかけて、お庭へ出てゆきました。
 よう子ちやんはそのすきにソーツとお台所にはいりこみました。
 ガスの火はボウ、ボウ、ボウと妙な声を出して、もえて、その上にお鍋とおやかんがならんでゐます。
「よう子ちやん、もつとこつちへいらつしやいな。おもしろい歌をきかせてあげませう。」どこからかこんな声がしましたので、よう子ちやんはびつくりしてしまひました。
 すると、おやかんが、こんな歌をうたひ初めました。
「ブクツ、ブクツ、ブクツ、ブクツ。」それからその歌は段々大きくなつて、
「プー、プー、シユツ、シユツ、プー、プー、シユツ、シユツ、シユツ」
 それから、もつと、もつと大きく、
「ブク、ブク、シユ、シユ、ブク、シユ、シユ。」あまり大きな声を出して歌つたので、おやかんの上に乗つかつてゐた ふた までが、
「パクン、パクン、パクン、パクン」ととんだり、はねたりの大さわぎです。
「おやかんが、私に歌をきかせてゐるんだわ。だけどお湯がにたちすぎやしないかしらん、私、心配だわ、どうしませう。」よう子ちやんは心配になりました。
「グツ、グツ、グツ、グツ、グツ、グツ、グツ」今度はお鍋もおやかんの歌に合せて歌ひ初めました。
「グツタ、グツ、グツタ、グツ、グツタ、グツタ、グツタ。」段々大きな声を出しました。
「お鍋が私に歌をきかしてくれてゐるのね。だけどあんな声を出して、にたちすぎると困るわ。」
「ピチ、ピチ、ピチ、ピチ、ピチ、ピチ、ピチ。」出ない声をはり上げて、フライパンまでが歌ひ出しました。
「チリ、ピチ、チリ、ピチ、チリ、ピチ、チリ。私だつて歌はうと思ひや、歌へるのよ。チリ、チリ、ピチ、ピチ、チリ、ピチ、チリ。私の声はとてもいい声でせう?」
「ブク、ブク、グツ、グツ、ブク、グツ、ブク。私たちはこんなに大きな声が出せるのよ。大きな声をね。」とお鍋とおやかんは又、負けずにがなり立てました。
 ブク、ブク、シユツ、シユツ
 パク、パク、パク
 グツ、グツ、グタ、グタ
 チリ、ピチ、チリ
 お鍋とおやかんとフライパンはめいめい夢中になつて歌つてゐるうちに、さあ、大変、みんなガバンガバンと煮えくりかへつてしまひました。
 プク、パク、グツ、ピチ、プク、パク、グツ。ピチ、プク、パク、グツ、ピチ、プク、パク。
 その音をききつけて、お母さんは大あわてにあわてて、台所へかけこんで、お鍋とおやかんとフライパンを火から引きずり下しました。お鍋とおやかんとフライパンのけんかはこれでおしまひになりました。お母さんはおつしやいました。
「よう子ちやん、こんどから、お鍋や、おやかんやフライパンがブツブツ言ひ出したらお母さんにすぐ知らさなくちやいけませんよ。」
「私が悪いんぢやないのよ。お鍋とおやかんにけんかをしかけたフライパンが悪いのよ。さうでせう! お母さん?」お母さんは何にも御存じないのでおかしさうにお笑ひになりました。



オ寝坊ナ ジヤガイモサン



 人参ニンジンサントジヤガイモサンハ 大ソウ仲ノヨイオ友達ダツタノデスケレド、ヒヨツトシタ事カラ ケンクワシテ、オタガヒニ、モウ 一生口ナンゾキイテヤラナイゾト 決心シマシタ。
 トコロガ アル日、人参サンノ所ヘ、人参サント ジヤガイモサンノオ友達ノ玉ネギサンガ タヅネテキテ、
「ボクモ、コンナニ大キクナツタノデ、トウトウ、アシタノアサ、六ジニ キシヤデ マチノイチバヘ行クコトニ キマツタヨ。アシタノアサハ ジヤガイモサンニモサウ言ツテ二人デ一シヨニ、キツト オミオクリニキテクレタマヘ。」ト言ヒマシタ。
「キツト、キツト、二人デオクツテユクヨ。」
 人参サンハ ヤクソクシマシタ。玉ネギサンハ アンシンシテカヘツテユキマシタ。
 アトニナツテ、人参サンハ ジヤガイモサント、ケンクワヲシテヰルコトヲ思ヒ出シマシタガ、シカタナク、何度モ、ソノコトヲ話ニジヤガイモサンノオウチノ入口マデ行ツテハ、
「エエ、イマイマシイ、ボクノハウカラ、口ヲキイテヤルナンテコトハナイ。」ト ハラヲタテテ ソノママオウチヘモドリマシタ。
 アクル朝、人参サンガ起キタ時ハ 六ジニ少シシカ間ガアリマセンデシタ。人参サンハ ジヤガイモサンニダマツテ、一人デ玉ネギサンヲ オクツテユカウト思ヒマシタケレド、ソレデハ、ドンナニ玉ネギサンガカナシガルデセウ。ソレデ、人参サンハ決心シテ、ジヤガイモサンノオウチヘカケコンデ、眠ツテイルジヤガイモサンヲユスブリマシタ。トコロガ、皆サンゴゾンジナイカモ分リマセンガ、ジヤガイモサンハ大ヘンナオ寝坊サンデシタカラ、人参サンニゴツンゴツンタタカレテモ、「何ダ? 何ダ? エ? 何ダ? 何ダ?」ト トボケ声ヲダスバカリデシタ。
 仕方ガナク、人参サンハ顔ヲマツカニシテ、半分ネムツテヰルジヤガイモサンノ手ヲウン、ウンヒツパツテ、一里モ先ニアル村ノ停車場ヘカケ出シマシタ。
 目ヲトジテヰルジヤガイモサンハ、石ニツマヅイテ、何度モコロンデ、コブダラケニナツテモ マダマダ、目ガサメナイデ、
「何ダ? アイタタ、何ダ? アイタタ。」ト 言ヒマシタ。ソシテ、玉ネギサンノ ノツテヰル汽車ノ中ヘハイツテイツテ、席ニコシヲ下シテ、グウ グウ グウ グウ眠リコンデシマヒマシタ。玉ネギサント人参サンガオドロイテ ジヤガイモサンヲ汽車カラ引ツパリオロサウトウロタヘテヰルウチニ、ガタン、ゴトント 汽車ハ三人ヲノセタママ ウゴキ出シマシタ。
 三人ハ コンナワケデ、一シヨニマチヘ行ツタノデ、ソノ時カラコツチ、人参ト玉ネギトジヤガイモハ イツモ一シヨニオ料理サレルヤウニナリマシタ。又、ナゼ人参サンノ顔ハ赤イカ、ジヤガイモサンハコブダラケカ、オ分リニナツタデセウ?



お鼻をかじられたお猫さん



 あるところに、おねこさんがありました。だれもつきあつてくれません。このお猫さんは、大へんきむづかしやで、年中おこつてばかりゐるからです。
 或日あるひ椅子いすに腰かけて新聞をよんでゐましたが、眠くなつて寝こんでしまひました。
 そこへ、この間生れたばかりで、もうチヨコ/\走りまはつてゐるネズミさんがやつてきました。お猫さんがきむづかしやだなんてことは、まだ知りません。お猫さんの椅子いすにはひあがつて、お猫さんのお鼻を一かじりかじりました。そこには、あまいおいしいゼリーのかけらがくつついてゐたからです。
    ×             ×
 その時、お猫さんは、いやといふ程、お鼻をかじられた夢を見ました。よく見ると、近所の動物園のおりの中にゐるとらさんが、つめをとんがらかして、お鼻の先にくひついてゐました。お猫さんは、びつくりして目がさめました。お猫さんは腰をぬかして「わあ、虎にかまれた。虎だ、虎だ、助けてくれ――」と、大きな声を出しました。
 近所のお猫さんや、うさぎさん、犬さん、あひるさん、羊さん、牛さんたちは、腹が立つてはゐましたが、虎さんにかみころされては、あんまりかあいさうだと思つて、ピストルや、てつぱうをさげて、とんできました。消防自動車は火事かと思つて、ピユーピユー四方から走つてきました。
 ところが、虎さんなどはどこにもをりません。ベツトの下や、敷物までハガシて見ましたが、足跡もありません。みんなとてもおこりました。そしてお猫さんの家中うちぢゆうを泥足でふんづけて帰つて行きました。
    ×             ×
 ところが、お猫さんのうちのお隣りはネズミさんのおうちです。ネズミさんの赤ちやんは、お猫さんのおうちの大さわぎが、自分のせいだといふことは知りません。夕方になつて、ノコ/\おうちへ帰つて来て、お母さんにいひました。
ぼく、さつき、お猫さんのおぢさんの鼻の先をかじつたの。だつて、先ツチヨに、ゼリーがついてたんだもの。あんなゼリー、うちでもこさへてね」
 ネズミさんのお母さんはびつくりいたしました。けれども、おしまひにはおかしくなつて、うちにぢつとしてゐられません。早速近所の家へこのことをおしやべりしてあるきました。
 街中は大さわぎです。みんな、窓から首を出して「アハハハハハ」と、大笑ひいたしました。
 お猫さんは、その時牛乳を飲んでゐましたが、恥かしくなつて、のどにつかえて、飲むことができません。新聞社の写真がかりの犬さんが、窓からソツとこのシカメツ面のお猫さんを写真にとつて、あくる日の新聞にのせました。お猫さんはこの写真を見て、自分ながらそのシカメツ面がおかしくなつたので、大笑ひいたしました。あんまり笑つたので、その時からお猫さんはおこるといふことをわすれてしまつて、とてもニコ/\したいいお猫さんになつて、お仕舞には街のニコ/\クラブの会長さんになりましたさうです。



お姫さまと猟師



 お姫さまは朝から、大変ごきげんがわるうございました。そして、ぷりぷり、おこつてゐらつしやつたので、いつものかはいゝお姫さまではなくて、年をとつた、おばあさんのやうに、こはいお顔をしてゐらつしやいました。そこへ、お姫さまの大好きな、猟師が山から帰つて参りました。そして、
「お姫さま、今日は何にも、えものがございませんでした。」と猟師が申しました。
「えものがなかつたの?」と、お姫さまはおつしやいました。そして、お泣きになりました。そこで、猟師が申しました。
「それがです。わたしは、どんと、この鉄砲を打ちました。猟犬のレオは、一散に走つて行つて、えものをくはへて来ました。まあ、おどろくではございませんか、おもちやのくまなんです。そしてそのおもちやの熊は死んでゐました。また、けものが出て来ました。真白まつしろ犬位いぬぐらゐあるやつなんです。これはと思つて引金を引きました。レオは飛んでゆきました。まあ、何となさけないことでせう。白い、小ちやい犬ころでした。
 仕方がないので、谷へおりて行つて水をのまうと致しますと、目の前に、わに程もあるお魚が泳いでゐるのでございます。私はすつかりおなかがへつて、ぺこぺこでした。急いでそれをつかんで、口の中へ、はふりこみました。まあ、何て、かたい肉でせう。私の前歯が四本ともぼこぼことをれてしまひました。お姫さま、それは、五寸位の、鉄のおもちやのお魚でした。私は、なさけなくなつて、ぐつたりと大きい木にからだをもたせかけましたら、どしんと、私はひつくりかへりました。何にも、木なんぞありませんでした。よくよく足もとを見ると、おもちやの松の木がころがつてゐました。」
 この猟師は[#「 この猟師は」は底本では「この猟師は」]、かう言ひながら、泣きさうになりました。大変年寄りでしたから無理もありません。
「まあ、お前は馬鹿ねえ。なぜ、そのおもちやを、私にもつてかへつてくれなかつたの。」とお姫さまがおつしやいました。
 猟師は、さも困つたやうに胸をどきどきさせて涙をこぼしました。
「お姫さま。私はさう思ひました。そして、それをひろひあげて、この網のなかへ入れようと致しますと、みんな、網のなかへははひらず、外へこぼれてしまひました。お姫さま、それは、たしかに夢だつたんでございます。」
 お姫さまは大きい声でお笑ひになりました。美くしいお姫さまが、ごきげんを直したので、猟師はやつと安心して、胸をなでおろしました。そして、二人で、いつまでも笑ひました。



オマツリ



 ポカポカトアタタカイ アキノヒデシタ。イケノカメサンタチモ ウツラ ウツラト ヒナタボツコヲ シテヰマス。
 カメコオバサンハ マルコオバサンノ ウチヘ、ノソリノソリト ハツテ ユキマシタ。チヨツト ソウダンシタイコトガ アツタノデス。
 ソウダント イフノハ ホカデモアリマセン、モウ一シユウカンスルト オマツリガ アルノデス。ソノ オマツリニジブンノ キルキモノト、コドモタチニ キセルキモノノコトデス。
 フタリハ ナニヲキタライイカ、イロイロト ソウダンシテヰルウチニ、ダンダント ネムクナツテ キマシタ。メヲパチパチサセテ、ナントカシテ ネムラナイヤウニ、ホネヲオリマシタ。
 マルコオバサンハ セツカク カメコオバサンガ キタノダカラ、オキヤクサマノ マヘデ ネムツタラ タイヘン シツレイダ トオモヒマシタ。
 ダガ イクラ ガマンシテモ ネムタクナルバカリデス。
 フタリハ オタガヒニ、ムカフガ サキニ ネムツテ クレレバヨイニ、トオモヒマシタ。
 フタリハ ハンブン ヰネムリナガラ、ソレデモ ハナシヲ ツヅケテヰマス。
 マルコオバサンガ イヒマシタ。
「エエ、エエ、ソレハ キツト ヨイトゾンジマス。」
 カメコオバサンハ オホキナ アクビヲ カミコロシナガラ、イヒマシタ。
「デモネエ、ワタクシ スコシ ハデスギヤシナイカト オモフノデスケレド。」
 マルコオバサンガ イヒマシタ。
「イエ、イエ、ハデダナンテ ソンナコト アルモノデスカ。」
 カメコオバサンガ イヒマシタ。
「イイエ、ハデデスワ。ヤツパリ ハデデスワ。」
 マルコオバサンガ
「ソンナコト――アル――モノデスカ。」
 カメコオバサンガ
「イイエ――ヤツパリ――ハデ――デスワ。」
 マルコオバサンガ
「マア――ソンナ――コト――」
 カメコオバサンガ
「ダツテ――イイエ――ヤツパリ――」
 ソシテ フタリトモ、コヱガ ダンダン チヒサクナリ、クチガマワラナクナリ、ヤガテ グツスリ ネムリコンデ シマヒマシタ。
 ソシテ、ソノママ ユフガタマデ ネムツテ シマヒマシタ。
 ユフガタニナツテ メガサメマシタガ、ドツチガ、サキニネムツタノカ フタリトモ ワカリマセンデシタ。
 ソレデ フタリハ イツシヨニ ワラツテイヒマシタ。
「マア、ポカポカト アタタカイヒデ ゴザイマシタワネエ。」



おままごと



うめのはな
うめのはな、
えだのうへで
あつたかいね。
ぽか ぽか
あつたかいね。
しろいごはん、
しろいごはん
おかまのなかで
あつたかいね。
ぽか ぽか
あつたかいね。



おもちや の めがね



 あるところにおばあさんがありました。だいぶ目がうすくなつたので、目鏡めがねが一つほしいと思つて、ためておいたお金をお財布に入れて目鏡やさんに行きました。おばあさんは、
「目鏡やさん、このお財布のなかのお金をすつかりあげますから、一番よく見える目鏡を下さい。」と申しました。目鏡やさんはお財布をしらべましたら、五厘銅貨が廿枚しかありませんので、がつかりしてしまひましたが、十銭でも、もうけなければ損だと思つて、
「おばあさん。これは丁度十銭です。」と言つておもちやの目鏡をあげました。おばあさんは大喜びでおうちへそれを持つて帰りました。
 夕方夕刊が来ましたので、おばあさんは目鏡をかけてみました。けれども、文字など何一つ見えません。あんまり目をさらのやうに、ひろげたのでおばあさんはつかれて、眠つてしまひました。そしてそれつきり目鏡のことなどは忘れてしまひました。
 それから一月位たつと、又、おばあさんは、目がうすくなつた事に気がついて、ためておいたお金を持つて目鏡やさんに行きましたが、矢張り、五厘銅貨が廿枚しかないので、目鏡やさんは、前と同じおもちやの目鏡をおばあさんにあげました。おばあさんは、それをかけましたが、一向文字などは見えませんので、つい目鏡のことなどは忘れてしまひました。こんなことを毎月毎月くりかえしましたので、たう/\おばあさんのお家はおもちやの目鏡で一杯になつてしまひました。そしておばあさんは、夜も外で寝なければならない位になりました。おばあさんは悲しくて泣いてゐました。
 おもちやの目鏡さんたちは、おばあさんの泣いてゐるのを見て、気の毒に思ひましたので身体からだを曲げたり、手をちゞめたりして、小さくならうとしましたが、この上、どうにもならないのでした。
 おばあさんはこれを見て、おもちやの目鏡さんたちが、かわいさうでたまらなくなりました。そして、たう/\決心して、街のおもちややさんに五円五十銭で買ひ取つてもらふことにしました。
 おばあさんは、この五円五十銭を持つて又目鏡やさんに行きました。目鏡やさんはお金を勘定して、今度は、ほんとによく見える目鏡をくれました。おばあさんは、もうの上目鏡を買ふこともなくなつたので、広いお部屋で、呑気のんきに、新聞がよめることになりました。



オヤカン ト オナベ ト フライパン ノ ケンクワ



オヤカン グツ グツ、
オナベハ グタ グタ、
フライパンハ
フライパンハ ピチ チリ ピチ チリ
グツ グツ グタ グタ
ピチ チリ ピチ チリ

オヤカン ピカ ピカ
オナベモ ピカ ピカ
フライパンハ
フライパンハ マツクロクロクロ
グツ グツ グタ グタ
ピチ チリ ピチ チリ

オヤカン クス クス
オナベモ クス クス
フライパンハ
フライパンハ オコツテ オコツテ
ピチツ チリツ ピチツ チリツ
ピチツ チリツ ピチツ チリツ

オヤカンモ マケズニ
オナベモ マケズニ
フライパンモ
フライパンモ マケマケマケズニ
グッツ バクッ グタッ グタッ
ピチツ チリツ ピチツ チリツ

オヤカンモ マツクロ
オナベモ マツクロ
フライパンモ
フライパンモ コゲコゲコゲツイテ
パチ チリ シユッ シユッ
パチ チリ シユッ シユッ
          服部正曲



カヘルサント、コホロギサン



 アルトコロニ、学者デ、近眼デ ソヽツカシイカヘルサンガアリマシタ。毎日、高イ木ノ枝ニ腰カケテ、四方ヲミマワシテ、何カヲサガシテヰル様子デス。
 ソレヲ、草ノ葉ノカゲデ、セツセト縫物ヲシテヰタコホロギサンガミツケマシタ。
「カヘルサン、毎日オアツイデスネ。ソンナニ高イ所ニイラツシヤラナイデ、コノ涼シイ草ノ葉ノカゲヘイラツシヤイ。」トコホロギサンガイヒマシタ。
「コホロギサン。アリガタウ。ケレドモ、私ハコヽニヰナケレバナリマセン。ナゼトイヘバモウ秋デセウ。モウ、着物ヲコシラヘナケレバナリマセン。ケレドモ私ハ自分デヌフコトガデキマセン。ソレデ、毎日、ダレカヌツテクレソウナ人ガ通ラナイカトミテヰルノデス。」
 コレヲキイテコホロギサンハ大笑ヒシマシタ。
「マア、アナタハ、何トイフ近眼デセウ。私ハ仕立屋デ、毎日、コヽデ着物ヲヌツテヰマシタノニ。」
 カヘルサンハ生レツキ色ガ青カツタノデスガ、コノ時バカリハ赤クナリマシタ。ソシテ、
「マア、ソレハヨカツタ。何トイフウレシイコトダラウ。」
トイツテ、ソヽツカシイカママルサンハ高イ木ノ枝カラ、ポント土ノ上ヘ飛ビオリマシタ。
 トコロガ、大変ナコトニナリマシタ。カンジンノ反物タンモノヲ木ノ枝ノ穴ノ中ヘオイテキマシタカラ。カヘルサンハアワテテ木ニノボラウトシマシタノデ、ツルツルツルツルトスベツテドウシテモノボルコトガデキマセン。スルトソレヲミテ、親切ナコホロギサンハイヒマシタ。
「カヘルサン、ワタシノ足ニ綱ヲツケテ上ヘヒツパリアゲテ下サイ。スグトツテキテオアゲシマスカラ。」ソコデ、カヘルサンハコホロギサンノ足ニ綱ヲツケテ、木ニノボツテモラヒマシタ。コホロギサンハ、カウシテ反物タンモノヲトツテキテ、早速立派ニヌツテアゲマシタ。カヘルサンハドンナニウレシカツタデセウ。ソレヲキテ記念ノタメニコホロギサントイツシヨニ写真ヲウツシマシタ。ソレヲワタシハ持ツテヰマス。ミタイカタハ、ワタシウチヘ遊ビニオイデナサイ。



かかし





シルクハツトと洋服と、
きれいな きれいな かたかけと、
ステツキもつてる かかしさん。

にはとりさんが
やつてきて、
コケ、コケ、
ステツキを けとばした。
コツ、コツ、コケ、コケ、
コケ、コツ、コケ。

にはとりさんは かなしかろ、
シルクハツトも かたかけも、
洋服も ステツキも もつてない。

にはとりさんが 言ふことに、
「シルクハツトと 洋服さん、
ステツキさんと かたかけさん、
あいつはなんだ、かゝしめだ。
かかしのくせに なまいきだ。」

これきいて よろこんだ
ひよつこさん、
ピヨ ピヨ ピヨ ピヨ
はねてきて、
かかしのステツキを けとばした
ピヨ ピヨ コツ コツ
ピヨ コツ ピヨ。

にはとりさんと ひよつこさん、
はたけの たねを ほじくりだす、
コツ、コツ、コツ、コツ、
ほじくりだす。
ひやくしやうさんが やつてきて
おめめ ぱちぱち おどろいた。

ひやくしやうさんが いふことに、
「おまへは それでも かかしかい。
なまけかかしめ みておいで。
いまに どうするか、
まつてゐろ。」

シルクハツトと 洋服と、
きれいな かたかけと ステツキは
ブル、ブル、ブル、ブル、
ブル、ブル、ブル。
こわくて ふるへる、
ブル、ブル、ブル。

にはとりさんと ひよつこさん、
ピヨ、ピヨ、コケ、コケ、
ほじくつた。
まだ まだ ほじくる、
まだ ほじくる、
はたけの たねを
まだ ほじくる。

10

これみて おこつた
ひやくしやうさん
「いたづらにはとり
ひよつこめ。」
かかしの ステツキを ふりあげた。

11

そのとき ふいに よるがきた。
にはとりさんも、ひよつこさん、
どこに どうして ゐるのやら、
さつぱり みえなく なつちやつた。

12

そこで よろこんだ にはとりさん
ひよつこさんは ピヨ、ピヨ、ピヨ。
コケ、コケ、ピヨ、ピヨ、
コケ、ピヨ、コケ。
シルクハツトも 洋服も
きれいな きれいな かたかけも、
むね なでおろして よろこんだ。

13

かかしの
おとうさんが
やつてきて、
かかしを
つれて
いつちやつた。

14

くわいちゆう
でんとうを
ひからせて、
にはとりの
おとうさんが
やつてきた。
にはとりさんと
ひよつこさん、
ピヨ、ピヨ、
コケ、コケ、
いつちやつた。

15

ひやくしやうの
おとうさんが
やつてきて
「なにを ぐづぐづ
してるだよ。」
ひやくしやうさん
つれて いつちやつた。

16

そこで
あかるくなつたとさ。
これで おしまひ
さようなら。



かくれんぼ



 ある日、小ぐまさんとあひるさんが、かくれんぼをして遊びました。
 ジヤンケンをして小ぐまさんが負けました。小ぐまさんは、あひるさんがむかふのお部屋に行つてゐる間に、机の下にもぐり込みました。
 机の下にかくれた小ぐまさんは、あひるさんの来るのをどんなに待つたことでせう。一時間はたつぷりじつとしてゐました。それだのに、あひるさんは、まだ、さがしに来ないのです。
 小ぐまさんは、まつくらな、せまい所でしやがんでゐるものですから、足や手が痛くなつて来ました。小ぐまさんは、腹が立つて、腹が立つてたまらなくなりました。そして、かくれんぼなんぞしちまへ、と思つて、机の下からひ出ようとしましたが、あひるさんに見付かると、せつかく、今まで辛抱したのが、無駄になるので我慢しました。
    ×             ×
 さて、あひるさんは、お隣の部屋で何をしてゐたのでせう。このあひるさんは、とても、わすれつぽいあひるさんだつたものですから、小ぐまさんとかくれんぼをしてゐることをすつかり忘れてしまつて、おしやれをしてゐたのです。あひるさんは、女の子だつたからです。まづお母様の洋服を着て、おくつをはいて、その次にお帽子をかぶつて、パラソルをひろげて部屋から、外に出かけながら、かう大きな声で小ぐまさんに言ひました。
「小ぐまさん、私は、これから散歩に行つて来ます。」そして、どん/\外にかけて行つてしまひました。
 小ぐまさんは、それを聞いて、
「僕も一しよに行きたい。」と言ひさうになりましたが、あひるさんにつかまると困ると思つたので、あわてゝお口にふたをしました。それから、小ぐまさんは何時間、そこで、じつとしてゐたことでせう。
 たうとう、夜になりました。

 それでも小ぐまさんは、もう一寸ちよつとの辛抱だ、もう一寸の辛抱だと思つて、我慢をしてゐました。何故なぜといへば、こんな、誰にも分らないやうな上手なかくれ場所を見付けたのですもの、小ぐまさんは、あひるさんに、それを自慢してやらなければ、つまらぬからです。
 すると、やがて、窓が開く音がしました。そして、誰だか高い窓から飛んではいつて来て、又、出て行つたやうなのです。
 小ぐまさんは、その音を聞いてゐるうちに、すつかり、かくれんぼをしてゐるといふことを忘れてしまひました。そして、そつと、机の下から這ひ出して行きました。そして、机の上を見ました。
 けれども、その机の上には、真白なナフキンがかぶさつてゐるので、小ぐまさんにも、又、このお話を書いてゐる私にさへも分らないのです。
 すると、そのナフキンの下から、小さな声がしました。それは、
「私は、お月様です。」と聞えました。
 小ぐまさんは、それを聞いて大変よろこんで申しました。
「ナフキンの下にいらつしやるお月様、どうぞ、よく光つて、このくらいお部屋を明るくして下さい。」と申しました。
 すると、ナフキンが、ピク/\動いたと思ふと、ナフキンの下から光がさして、お部屋が明るくなりました。
 その時、丁度、忘れつぽいあひるさんが散歩から帰つて来ました。小ぐまさんは、あひるさんに、とびついて喜びました。
 そして、二人で、机の上のナフキンをそつとどけましたら、お月様はいらつしやらないで、白い西洋皿に、おいしいおいしいごちさうが、山のやうに盛つてありました。
 そのごちさうがあまりおいしかつたので、二人は、かくれんぼの事は、すつかり忘れてしまひました。



風邪をひいたお猫さん



 あるところにおねこさんとそのおかみさんがありました。それはそれは立派なおヒゲをもつてゐたので、二人は自慢でしやうがありません。毎朝、起ると、すぐに鏡の前へ行つて、そのヒゲに油をつけて、それを毛織の切れでよくみがきました。まるで、そのヒゲはナイフのやうに光りました。
 けれども、二人があんまり自慢するので、初めのうちは、
「まあ、御立派なおヒゲでございますこと。」と会ふたびに言つてゐたお友達も、このごろでは、腹を立てて、何とも云つてくれません。
「ねえ、此頃このごろはどうしたものか、だれもこの立派なおヒゲをほめなくなつたが、一体、どうしたもんだらう。」と、お猫さんはおかみさんに言ひました。おかみさんは、
「あんまり、きれいに光りすぎるのでまぶしくつて、誰の目にも見えないんでせうよ。お日様みたいにね。」と言ひました。
「ぢや、今日から、少し汚しとかうね。さうすりや、誰の目にもつくからね。」とお猫さんは言ひました。
 汚くなつたおヒゲを見て、お友達は言ひました。
「まあ、おヒゲが大変おきたなくなりましたこと。」
 二人は口惜くやしくつて、涙が出ました。そしてすぐにおうちへ帰つて、けんくわをしました。
「お前は何といふ馬鹿ばかなおかみさんだ。ぼくはすつかり恥をかいてしまつたよ。」
 お猫さんはどなりました。おかみさんは泣きました。
 しかし、けんくわをしてゐてもつまりません。二人は、もつともつと人の目につくやうにするのにはどうしたらよいかと相談しました。五時間も考へたあげ句、お猫さんはかう言ひました。
「さあ、早く行つて、かみそりを買つておいで! 身体からだの毛をそるんだ。そしたら、立派なおヒゲが、もつともつと目に立つから。」
 おかみさんはかみそりを買つて来ました。二人はいたいのを我慢して、身体の毛をそり落しました。そして鏡を見ました。
「ああ、何て、私たちのおヒゲは立派なんでせう。」とおかみさんは言ひました。お猫さんは、
「どんなもんだい、僕の考へのよさは……」と言ひも終わらないうちに、
「ハクシヨ――ン」と、くしやみをしました。
 二人はその場で風邪をひきました。そして、毛の生えそろふまで、病院へ入院しました。
 何故なぜといつて、外では雪が降つてゐるといふ時候でしたからね。



髪床やの大根さん



 今年とおになつた、大根さんのおうちはお父さんが髪床やさんでした。二人とも、おやさいの中で一番頭の毛が青く立派に生へてゐるので、れでも、大根さんのうちが髪床やさんをしてゐるのを笑ふものはありませんでした。
 大根さんは毎日お父さんが方々のうちへ髪を刈りに出張するので、お父さんのうしろから髪を刈るはさみやバリカンを入れた箱を持つてついて行きました。
 ある日、二人は大根さんのお友達の玉ねぎさんのおうちへ行きました。そしてお父さんが、玉ねぎさんのお父さんの頭を刈つてゐるあひだに、大根さんは玉ねぎさんの頭をはさみで、ぎざ/\にちよんぎつてしまひました。
 玉ねぎさんと大根さんはすつかり困つてしまつて、にかわを買つて来て一本一本つぎたしました。けれども、一本の所へ二本くつつけたりしたので、とても変てこになりました。
 玉ねぎさんのお父さんはこれを見てすつかりおこつてしまつて、大根さんとお父さんを門の外へつき出して、
「もう、二度と お前たちには用事はないよ。」
と申しました。ほんとに困つたことになりました。
 これを聞きつけた町の人たちは誰れも彼れも、大根さんのお父さんに髪を切つてもらふことをめました。そして玉ねぎさんが町を歩いてゐるのを見て、
「桑原、桑原。あんな頭にされるといやだからねえ。」
と申しました。
 大根さんもお父さんも大変悲しみましたが仕方がありません。それから一と月位たつてから、
「何か別の商売を初めて見やうかしらん。」
と考へましたが、何といつても髪床やさんより外には、大根に向いた商売はないのでした。二人は困りました。ところが、このごろになつて、
「大根さん、私の頭を刈つて下さい。」と方々からたのんで来るやうになりました。お父さんの大根さんは大よろこびでもあり、不思議でもありましたが、どうしても、そのわけがわかりませんでした。けれども、子供の大根はすぐそのわけがわかりました。そしてお父さんに、
「お父さん、玉ねぎさんの髪の毛が、もとのやうに、伸びたからだよ。」と申しました。
 そしてそれは、ほんとのことでした。



〈かみのすくない カテリーナ〉



かみのすくない カテリーナ
おもてにでたら、
かぜがきて、
だいじな だいじな かみのけを、
いつぽん
いつぽん
ふいたので、
かなしくなつて
ないてたら、
たう\/かぜを
ひきました。



カメサン ノ サウダン



 ポカポカトアタタカイ アキノヒデシタ。オイケノカメサンタチモ ウツラ ウツラト ヒナタボツコヲ シテヰマス。
 カメノ カメコオバサンハ、キンジヨノ マルコオバサンノウチヘ、ノソリノソリト ハツテユキマシタ。チヨツト サウダンシタイコトガ アツタノデス。
 サウダント イフノハ ホカデモアリマセン、モウ一シユウカンスルト オイケデ オマツリガ アルノデス。ソノオマツリニ ジブンノ キルキモノト、コドモタチニ キセルキモノノコトデス。
 フタリハ ナニヲキタライイカ、イロイロト サウダンシテヰルウチニ、アマリ ポカポカト アタタカイモノデスカラ ダンダント ネムクナツテキマシタ。
 ソレデモ メヲ パチパチサセテ、ナントカシテ ネムラナイヤウニ、ホネヲ オリマシタ。
 マルコオバサンハ セツカク カメコオバサンガ キタノダカラ、オキヤクサマノ マヘデ ネムツタラ タイヘン シツレイダ トオモヒマシタ。
 ケレドモ イクラ ガマンシテモ ネムタクナルバカリデス。ソノウチ、カメコオバサンモ トロトロト マブタガ オモクナリマシタ。
 フタリハ オタガヒニ、ムカフガ サキニ ネムツテ クレレバヨイニ、トオモヒマシタ。
 フタリハ ハンブン ヰネムリナガラ、ソレデモ ガマンシテ ハナシヲ ツヅケテヰマス。
「エエ、エエ、ソレハ キツト ヨイト ゾンジマス。」ト マルコオバサンガ イヒマシタ。
 カメコオバサンハ オホキナ アクビヲ カミコロシナガラ、
「デモネエ、ワタクシ スコシ ハデスギヤシナイカト オモフノデスケレド。」ト イヒマシタ。
 ソレカラ マルコオバサンガ
「イエ、イエ、ハデダナンテ ソンナコト アルモノデスカ。」ト イヒマスト
 カメコオバサンハ
「イイエ、ハデデスワ。ヤツパリ ハデデスワ。ムニヤ、ムニヤ。」ト ガンバリ、
 マルコオバサンガ
「ソンナコト――アル――モノデスカ。ムニヤ、ムニヤ。」ト イフト
 カメコオバサンガ
「イイエ――ヤツパリ――ハデ――デスワ。ムニヤ、ムニヤ。」
 マルコオバサンガ
「マア――ソンナ――コト――ムニヤ、ムニヤ。」
 カメコオバサンガ
「ダツテ――イイエ――ヤツパリ、ムニヤ、ムニヤ――。」
 ソシテ フタリトモ、コヱガ ダンダン チヒサクナリ、クチガマワラナクナリ、ヤガテ グツスリ ネムリコンデ シマヒマシタ。
 ソシテ、ソノママ ユフガタマデ ネムツテ シマヒマシタ。
 ユフガタニナツテ メガサメマシタガ、ドツチガ、サキニネムツタノカ フタリトモ ワカリマセンデシタ。
 ソレデ フタリハ イツシヨニ ワラツテ
「マア、ポカポカト アタタカイヒデ ゴザイマシタワネエ。キモノノコトハ、マタ アシタ ゴサウダン イタシマセウ。」ト イヒマシタ。
 ソレカラ マイニチノヤウニ カメコオバサンハ マルコオバサンノ トコロヘ サウダンニ ユキマス。
 ケレドモ マイニチマイニチ フタリハ カウシテ コウラヲ ホシナガラ ネムツテシマヒマス。
 ソレデ ミナサンモ ゴランニナルヤウニ カメサンハ ミンナ イマダニ ハダカデ クラシテイルト イフワケデス。
 コマツタコトデスネ。
 サウ オモヒマセンカ、ミナサン。



川の中へおつこちたお猫さん



 あるところにおねこさんがありました。どういふわけだか、生れつきおうちにゐるのがきらひで、いつでもぶらりぶらりと、あるきまはつてゐました。
 ある日、お母さんがおつしやいました。
「お猫さんや、今日は少し寒いから、おうちにじつとしていらつしやい。」
 けれども、お猫さんは、お母さんの姿が見えなくなると、すぐさまおうちをとび出して、三ママほどむかふの川のふちのあひるさんのところへ行きました。
 あひるさんのお母さんはおつしやいました。
「お猫さん、折角ですが、あひるさんはまだ学校から帰つて来ません。」
 お猫さんはがつかりしましたが、おうちに帰るよりこゝで待つてゐた方がましだと思つて、
「をばさん、外で待つてゐます。」と言ひました。
 一時間待ちました。
 あひるさんは帰つて来ません。寒い風が吹いて来て、お猫さんの帽子を川の中へふきとばしました。お猫さんは、一ママ四方にもひゞきわたる程大きく
「ハクシヨン※(感嘆符二つ、1-8-75)」とくしやみをしました。
 あひるさんのお母さんはおつしやいました。
「お猫さん、今日は寒いから、もうおうちへお帰りなさい。」
 それでもお猫さんは「ぼく、ちつとも寒くないや。」といつて、動きません。
 お猫さんはそこで、又一時間待ちました。けれどもあひるさんは帰つて来ません。
 又、寒い風が吹いて来て、お猫さんの上衣うはぎを、川の中へふきとばしました。お猫さんは二ママ四方位にひゞきわたる程、大きく「ハクシヨン、ハクシヨン。」と、くしやみをしました。
 あひるさんのお母さんはおつしやいました。
「さあ、もう、おうちへお帰りなさい。風邪をひきますから。」
 お猫さんはシヤツ一枚でガタガタふるえながら、
「大丈夫です。おばさん。」といつて、動きません。そしてもう一時間待ちました。
 夕方になつて、嵐のやうに大きな風が吹いて来ました。そしてお猫さんはコロコロと川の中へおつこちてしまひました。
 お猫さんはさいはひなことに、水泳の選手でしたから、ズブぬれになりましたが、すぐに川からはひ上つて、三ママ四方にもひゞきわたる程大きく、「ハクシヨン、ハクシヨン、ハクシヨン。」とくしやみをしました。そのくしやみの音は、お猫さんのおうちまでひゞきましたので、お猫さんのお母さんは大へんびつくりして、かけて来ました。そして、ズブぬれのお猫さんをおうちへつれて帰りました。
 おうちのベツトの中へはいつて、お猫さんは、
「川の水の中より、おふとんの中がずつとあつたかくていいや。」と思ひましたが、それは後のまつりで、その晩から熱が出て、一週間程はうんうんうなりましたさうです。



川へおちた玉ねぎさん



 ある町にジヤガイモ・ホテルといふ宿屋がありました。主人といふのが、ジヤガイモだつたからです。
 主人のジヤガイモさんは大変親切な人だつたので、このホテルにはお客様がいつも多すぎて、どうかすると、一晩に、二人や三人のお客様をことわらなければならぬこともありました。
 ある夕方、もう、この上一人のお客様も泊めることが出来ない程、満員になりましたので、「満員になりましたから、お気の毒でも、今晩は、どなたもお泊め出来ません。」といふ大きな満員札をジヤガイモさんは、ホテルの入口にかけようとしました。すると、そこへ、立派な玉ねぎの紳士がやつて来て、ジヤガイモさんに言ひました。
「どうか、ジヤガイモさん、私を泊めて下さい。大変つかれてゐますから。」
 ジヤガイモさんは、気の毒に思ひましたけれども、空いてゐる部屋がないので、
「お気の毒ですけれども、何分、もう満員になつてしまひましたから。」とことわりました。
 けれども、玉ねぎさんは、朝から遠い道を歩きつゞけて、くたくたにつかれてゐるので、この上歩くことが出来ません。
「馬小屋でも、屋根裏でも、どこでもいゝから、どうぞ泊めて下さい。」とたのみました。
 そこで、ジヤガイモさんは考へました。犬さんや、お猫さんならいざ知らず、玉ねぎさんを馬小屋になんぞ泊めたら、いやしんぼの馬が、玉ねぎさんを食べてしまふだらう。屋根裏に泊めたら、遠慮なしのくもが巣をかけるだらう。ジヤガイモさんは大変困りましたが、地下室のことを思ひ出して、
「では、地下室でも、よろしければお泊めします。」と申しました。
 玉ねぎさんは大変よろこんで、泊めてもらふことにしました。そして、ジヤガイモさんに案内してもらつて、地下室に行きました。
 そこは、真くらで、何にも見ることが出来ませんでしたので、玉ねぎさんは手さぐりで、小さいベツドを見付けて、そこへ横になるなり、ぐつすり寝込んでしまひました。
 すると、不思議なことに、そのベツドが少しづゝ、コツトン、コツトンと窓の方へ動き初めました。そして、窓ぎはの所まで来ると一緒に、ベツドは、急に、パンとひつくりかへつて、そのはずみに、玉ねぎさんは、窓の外へ投げ出されてしまひました。
 あ、あ、皆さん、窓の外には、何があつたかごぞんじですか。窓の外には、大きな川が流れてゐたのです。玉ねぎさんは、あつ、と言ふ間もなく、川のなかへ、ざぶんとおつこちて、見てゐるうちに、水のなかへ沈んで見えなくなつてしまひました。
 かはいさうに、玉ねぎさんは、野菜の皮を外にすてるために、こしらへてあつた、電気仕かけの箱をベツドとまちがへて、そのなかにはいつて寝てゐたのです。
 しかし――そのうちに、夜が明けました。
    ×             ×
 朝になつたので、ジヤガイモ・ホテルの主人のジヤガイモさんは、地下室へ、パンと紅茶を銀のおぼんにのつけて、来て見ますと、昨日の晩に、とまつたはずの玉ねぎさんの姿は、影も形もありません。玉ねぎさんの持つて来たトランクが、のこつてゐるだけでした。
 ジヤガイモさんは、大変に心配して、早速新聞社へ行つて、次のやうな広告を出してもらひました。
「キノフノバン、私ノウチノ地下室ニトマツタ玉ネギサンガ、行方不明ニナリマシタ。オ心アタリノ方ハ私ノトコロマデオ知ラセ下サイ。知ラセテ下サツタ方ニハ、オ礼ヲ一円サシアゲマス。ジヤガイモ・ホテル。」
 すると、その日の夕方、ひよつくり、昨日ゐなくなつた玉ねぎさんが帰つて来ました。
 ジヤガイモさんは、
「まあ、よく帰つて下さいました。どんなに心配したか知れません。」と言ひましたので、玉ねぎさんは、どんなに、ベツドから川のなかへ落ちたか、そして、どんなに、あわてておよいで岸にひ上つたか、そして、岸の上で、新聞の広告をよんだかを話しました。すると、ジヤガイモさんは頭をかいて申しました。
「それは、まことにお気の毒なことを致しました。その代り、今晩は、とても、すばらしいお部屋があいてゐますから、泊つて下さい。」と申しました。
 玉ねぎさんは笑ひながら言ひました。
「あ、あ、僕がもう一日おそく、こゝへ来たら、昨日のやうな、ひどい目には会はなかつたよ。」と申しました。
 けれども、不思議なことに、玉ねぎさんは、ひどく、このジヤガイモ・ホテルが気に入つてしまつて、一生涯、この、ジヤガイモ・ホテルの番頭さんになつて、ジヤガイモさんと一しよに住むことになりました。
 それですから皆さん、あなた方のめしあがる洋食で、ジヤガイモのついてゐるお皿には、きつと、玉ねぎがついてゐるでせう。それは、こんなわけです。
 そのあくる日から、ホテルの看板が、こんな風に書き変へられました。
「ジヤガイモ・玉ネギ・ホテル」と。



きしやのしよくどう



たまごよ
たまごよ
うでたまご。

おさらのなかで
ふるへてる
たまご。

たまごよ
たまごよ
なにがこわい。

きしやは
ぽつぽと
はしつてゆくのに。

たまごよ
たまごよ
なにがこわい。



ギツコン バツタン



ギツコン
バツタン
  あがつた
  あがつた。
ギツコン
バツタン
  さがつた
  さがつた。

ギツコン
バツタン
  そら そら
  あたしよ。
ギツコン
バツタン
  こんどは
  ぼくだよ。

ギツコン
バツタン
  はやく
  こがぬと
ギツコン
バツタン
  米つき ばつたに
  わらはれる。



きりぎりす の かひもの



 ある八百屋さんの店に きうりが山のやうに 積んでありました。その山のてつぺんで 一本の 大きなきうりが ぐうぐう眠つてゐました。初めは 一番下にゐたのですけれども、どんどん仲間を押しのけて、いつの間にかてつぺんによママ上り、いゝ場所をとつて お昼寝してゐたのです。かういふきうりを、横着きうりと言ひます。
 そこへ 一匹のきりぎりすが きうりを買ひに来ました。

 きりぎりすが、きうりを 大好きな事を 知つてゐる八百屋さんは
「一本四銭よりやすいきうりは 一本もありません。」と倍位も高く 言ひました。
 きりぎりすは 困つてしまひました。何故なぜといつて、きりぎりすは 壱銭銅貨を二枚きりしか 持つてゐませんでしたから。そこで きりぎりすは 八百屋さんに
「どうか二銭に 負けて下さいませんか。」と たのみました。八百屋さんは
「いーや、どうしても 四銭より 負けられませんわい。」と プリプリして、ことわりました。
 それから、きりぎりすと、八百屋の主人は口々に
「どうぞ、負けて下さいませんか。」
「いーや、負けられませんわい。」
「どうぞ、どうぞ、負けて下さいませんか。」
「いーや、いーや負けられませんわい。」
と 言ひ争ひました。

 八百屋さんは もともと 大さう気の短い人でしたから、とう/\、かんしやくを起して、いきなり足の先で、
「えいツ この面倒くさいきりぎりすめ!」
と きりぎりすを 力まかせに けつとばしました。けれども、風のやうに 身の軽いきりぎりすは その時
「えいツ」と身をかはしたので、八百屋さんの足は、きうりの山の てつぺんで、気持よささうに さつきから お昼寝してゐたあの横着きうりの 横ツ腹に ドカンとぶつつかりました。

「あ、いたた、いたた、いたた。」びつくりした横着きうりは 目をさまして、大きな声をはり上げました。気の毒な事に、横着きうりは 真中から ポツキンと二つに 折れてしまひました。
 きりぎりすは 二つに折れたきうりの 半分をひろつて、八百屋さんに言ひました。
「一本が四銭なら、半分は二銭でせう。ですから、二銭お払ひして、この半分を頂いて参ります。私は生れつき 少ししか食べられませんから、これだけでも 多すぎる位です。」
 そして、きりぎりすは 八百屋さんに 銅貨を二枚 チンチンとわたして、横着きうりの半分を 買物籠の 中へ入れて、帰つて行きました。
 八百屋さんは、腹が立つて わめきたくなりましたけれども、いくら 指を折つてかぞへて見ても、四銭の半分は 二銭ですから、おこるわけには 行きませんでした。仲々りかうな きりぎりすですね。さう思ひませんか?



けが を した おほかぜくん



 けふは おほかぜくんは たいへん いいごきげんでした。
「ヒユウ ヒユウ ヒユウ」
 これが おほかぜくんの うたです。
「ヒユウ ヒユウ ヒユウ。なにかいたづらを してやらう。」
 おほかぜくんは とんでいつて、こどもの ぼうしを ふきとばした。
 ピユウツ、コロ、コロ、コロ、コロ と ぼうしは とんでゆきました。
「ぼくのぼうしが とばされた。だれかつかまえて。」とこどもは おほごゑで いひましたが、のはらのまんなかで、だれもゐません。
「おもしろい、おもしろい。ヒユウ ヒユウ ヒユウ。」
 おほかぜくんは のはらをこえ、たんぼをこえて、やまのはうに ふいてゆきました。
 すると やまのふもとに ちいさな ちいさな ひつじのこが、くさをたべてゐました。
「やあ ちいさいやつだな。一つふきとばしてやれ。ヒユウ ヒユウ ヒユウ。」
 ひつじのこは ピユウツ、コロ、コロ、コロ、とふきとばされて、おほかぜくんが とほりすぎてしまふまで、どうしても おきあがることが できませんでした。
「おもしろい、おもしろい、ヒユウ ヒユウ ヒユウ。」
 おほかぜくんは やまをこえて、まちのはうへ ふいてゆきました。
「おもしろい、おもしろい。ぼくが ヒユウ と ふけば、なんでもかんでも ふきとばされてしまふ。まちでも なんでも、すぐふきとばしてしまふぞ。ヒユウ ヒユウ ヒユウ。」
 まちのいりぐちに、おほきな いしのへいが たつてゐました。
「ヒユウ ヒユウ ヒユウ。おやおや、これは すこし つよさうだぞ。だが ぼくが ふけば すぐふきとばされて しまふさ。それ、ゆけ。ヒユウ ヒユウ ヒユウ。」
 おほかぜくんは うん と ちからをいれて ふきました。だが、いしのへい は びくともしません。
「ヒユウ ヒユウ ヒユウ。こいつは なまいきなやつだ。よし、こんどこそ ふきとばしてくれるぞ。」
 おほかぜくんは うまれてから まだ だしたことのないやうな、ちからを だして、ふきました。
 だが どうしたことでせう。
 いしのへいは びくともしません。どこをかぜがふくか といふかほをして へいきでたつてゐます。
 おほかぜくんは すつかり はらをたてました。
 からだぢゆうに ちからを いれて、あたまをさげて、ビユウツ とばかり、いしのへいに とつかんしました。
 ビユウツ、ビユウツ。
 おほかぜくんの あたまには おほきな こぶができ、はなも ひざも すりむけました。
 だが どうしたことでせう。
 いしのへいは びくともしません。おほかぜくんは しりもちを ついたまま かんがへました。
「けふは ぼくはすこし あたまが どうかしてゐるらしい。もういたづらは やめよう。」
 そこで たちあがつて あをいうみのはうへ かえつてゆきました。
 なみのうへで ぐつすりねむつて、あしたのあさ めがさめたときは、おほかぜくんは しずかな おとなしい はるかぜくんに なつてゐました。
 ソヨ ソヨ ソヨ ソヨ と うみのうへを あるきました。



月謝の袋を失くしたあひるさん



 あひるさんは泣きながら学校から帰つて来て、お母さんに申しました。
「お母さん、先生から頂いた月謝の袋を落したの。先生にしかられるといや」
 お母さんはおつしやいました。
「あひるさんや、カバンの中をしらべて見て、なかつたら、明日あした、先生によくお話しをなさい」
 そしてお八つの牛乳を下さいました。けれどもあひるさんは一口も飲みません。
「あひるさんや、さあ、お飲みなさい。心配をしないで。とてもあたたかくて、うまい牛乳ですよ」と、お母さんは、あひるさんの口に牛乳のびんをおしつけました。すると、あひるさんは、牛乳の瓶をはねとばしましたので、折角の牛乳が半分こぼれました。
 そして、あひるさんはベツドの中へもぐり込んで、
「お母さん、今すぐ月謝の袋を見つけて下さい」と、わあ/\泣きわめきました。お母さんは家中うちぢゆうをさがしましたが、月謝の袋は出て来ませんでした。
 あひるさんはベツドの中で、涙でグツシヨリになつて、
「ああ、わたしが月謝の袋屋さんだつたら! 私はどんなに幸だつたらう。私はこんなに心配しないでもすんだのに。そして私は月謝の袋をなくして、心配で心配で泣いてゐる世界中の子供に、一枚づつ、ただで上げるのに!」と思ひました。けれども、あひるさんは月謝の袋屋さんではありません。ほんとにかあいさうなあひるさんです。
 ところが、その晩は大変よいお月夜でした。学校の先生のからすさんは、散歩に出かけて、あひるさんのうちの前を通りかかりました。
 あひるさんのお母さんは先生に申しました。
「先生、うちのあひるさんは月謝の袋を落したといつて、泣いてばかりゐて、牛乳も飲みません」
 烏先生は、ベツドの中へもぐつてしまつたあひるさんを、ベツドから引出して申しました。
「月謝の袋は明日あしたあげますから、早く牛乳をお飲みなさい」
 そこであひるさんは、やつと泣くのがとまつて、こんどはそれは/\うれしさうに、ニコ/\と牛乳を二本半と、御飯を四杯もたべて、ベツドの中へはいつて、明日あしたの朝まで、グツスリと眠りました。安心して下さい。



コイヌ



マアイツタイドコカラ
コンナニタクサン
ヤツテキタノカシラ。
コイヌ。
コイヌ。
コイヌ。
コイヌ。
コイヌ。
コイヌ。
コイヌ。
マアイツタイドコカラ
コンナニタクサン
ヤツテキタノカシラ。



こいぬ の ちびすけ



 コイヌ ノ チビスケガ タイヘンニ イバツテ ヤツテキマシタ。
「ウウ、ウウ、ウウ、ボクハ ステキナ オホイヌダ。」
 オホイヌ ノ ジヨンガ ビツクリシテ イヒマシタ。
「キミモ イマニハ オホキクナルサ。ダガ イマハ マダ チツポケナ コイヌダヨ。」
「ウウ、ウウ、ボクハ キミヨリ オホキインダ。ボクハココイラキンジヨデ イチバン オホキインダ。」
「ウオオ、ウオオ、ウオオ、キミハ キガチガツタラシイヨ。」ト ジヨンガ ワラヒマシタ。
「キナンカ チガフモノカ。ケサハヤク ノハラデ アソンデヰテ、ヒヨイト ミタラ、ボクノカゲハ キミヨリ ズツト オホキカツタンダゼ。」
 ジヨンハ タチアガツテ イヒマシタ。
「ヨロシイ。ソレナラ イツシヨニ ノハラヘ イツテミヨウ。」
「ワン、ワン、サア ユカウ。」
 ヒハ カン カン ト、マウヘカラテツテ、アツクテ タマリマセンデシタガ、ジヨン ト チビスケハ カケツコシテ ノハラニ ユキマシタ。
 ノハラノ マンナカデ カゲヲ ミタラ、二ツトモ チイサナ チイサナ カゲデシタ。イクラ オホキク フンバツテモ、チイサナ カゲハ オホキク ナリマセンデシタ。
 チビスケハ ビツクリシテ ナキダシマシタ。
「ウウ、ウウ、タイヘンナ コトニ ナツチヤツタア。」
 ユウガタ ヒガ シヅミサウニ ナツタトキ ジヨンハ チビスケニ ノハラヘ サンポニ ユカウト イヒマシタ。
 カナシサウナ チビスケハ クビヲ タレタママ、ジヨンノ アトカラ ツイテユキマシタ。
「サア カゲヲ ミテゴラン。」
 ジヨンガ イヒマシタガ チビスケハ クビヲ アゲマセン。
 ミミヲ クワエテ ヒツパツタノデ、チビスケハ シカタナク クビヲアゲテ、ジブンノカゲヲ ミマシタ。
「ワン、ワン、ボクハ オホイヌダ。ボクハ オホイヌダ」ト チビスケハ ヨロコンデ トビアガリ、シツポヲ クルクルト フリマワシマシタ。
 アサ ミタトキヨリモ、モツト モツト カゲハ オホキク ナツテヰタノデス。
 ソシテ カゲモ ヨロコンデ、トンダリ、シツポヲ クルクルト フリマワシタリ シテヰマシタ。
 ジヨンガ イヒマシタ。
「ワン、ワン、ヨク ミタマヘ。キミノ カゲハ オホキイガ、ボクノカゲハ モツト ズツト オホキイヨ。カゲガドンナニ オホキクナツテモ キミハ ヤツパリ コイヌ ナンダヨ。」
 チビスケハ チヨツト カンガヘテ ヰマシタガ、ヤガテトビアガツテ イヒマシタ。
「ボクハ オホキナ カゲヲモツタ コイヌダ。イマニ モツト オホキナ カゲヲモツタ オホイヌニ ナルンダ。ワン、ワン、ワン、ウレシイナ、ウレシイナ。」
 ソシテ カゲニ ジヤレツイテ アソビマシタ。



こほろぎの死



 ある日、うす寒い秋でしたのに、一匹のこほろぎが単衣ひとえを着て、街へ仕事をさがしに出掛けましたが、此間このあひだまでつとめてゐた印刷工場で足の上へ重い活字箱を落としてけがをして首を切られ、けがをした足は益々ますますふくれるばかりで、どこにも雇ひ手はありませんでした。夕方になつたのか身体からだ中が寒くなつたのでうちへ帰りかけますと、突然頭の上に、汚い冷い水が一杯浴びるやうに掛つたと思ふと、気が遠くなつて、倒れてしまひました。
 気が付いて見ると病院の診察台の上に寝てをりました。そばに院長のまだらはちが立つてゐて、
「気がついたか? お前は何処どこの何者だ? 風邪かぜひきと、丹毒たんどくといふ熱病だ。大分よくないから入院だ。入院料は一日二円五十銭だがあるかね?」
 こほろぎはお金がないのでびつくりして帰らうとしましたがぐつたりして起き上ることも出来ないので
わたしはお金がないんですが、先生、足が立たないので帰れませんから休まして下さい。」
「君一人の病院ぢやないんだ。一人をただで置いたら、みんな只でおかねばならなくなる。病院にはいるのに入院料がいる位の事は子供でも知つてることだ。それにお前はキリスト教信者ぢやないだらう。」
「何だかひどく苦しくてたまりませんからもう一二時間休ませて下さいませんか。」
「一二時間? もう三十分もすると、わしは街へ伝道に行かねばならないから、待つてやれない。帰りたまへ。君よりももつと重い病気でも、我慢してゐる人間はいくらでもあるんだ。」
 院長は、玄関番の芋虫いもむしに、こほろぎを外に連れて行くやうに言ひつけました。芋虫は門の日のさない所にしやがんで一日中下駄げたの出し入れをしてゐるので、黴菌ばいきんほこりを吸ひ込んで肺病になつて竹のやうに真青まつさをな顔をして足は脚気といふ病気のためにふくれ上つてゐるので、五あしに一度はころびさうになりました。そして、こほろぎを診察台から下さうとしましたが、身体からだ中がしびれて力が出ないのでした。院長はじりじりして、
「早くやれ、時間がないんだ。仕様のない弱虫だな。薬局生の尺取虫を呼んで来い。」
 丁度その時尺取虫は薬局で、ある金持の鈴虫のお嬢さんのシヤツクリ止めのお薬を調合してゐましたが、院長に呼ばれたのであはてて薬の分量を二倍も入れてしまひました。
 尺取虫は院長のお気に入りの男で、歩く時に非常に変な恰好かつかうをして身体からだを伸ばしたり縮めたりするのですが、それが、虫の仲間では恰好がよいといふ事になつてゐるので、尺取虫は年中、薬を調合しながら、横に鏡をかけておいて、髪をなでつけたり、顔をふいたり、ひどくおしやれでした。
 こほろぎは益々ますます身体からだの工合が悪くなつたやうに思ひましたので尺取虫に
「院長さんに願つてしばらく置いてもらうやうにして下さいませんか。お願ひです。」と申しました。尺取虫はこほろぎの汗くさい、よごれた着物をじろ/\見て顔をしかめました。
「いゝ加減に帰つたらいゝぢやないか。君一人にかかつてられないんだよ。忙しくて忙しくて朝から晩まで目がまわりさうなんだよ。図々しいね、君は。」
 尺取虫はこほろぎのそばにつつ立つて時々診察台をひどくゆすりましたので、こほろぎは床の上にころげ落ちて、そのまま、気が遠くなつてしまひました。
「外の涼しい風に当つたら気がつくから、今のうちに外に出してくれ。」と、院長の蜂は尺取虫に命令して、今までもじ/\と立つてゐた芋虫に、
「君、身体からだがわるさうだから、しばらく休み給へ。毎日、聖書でも読んで寝てゐれば直るよ。」と申しました。
「いえ、わたしはまだもつと働けます。今、休むと、うちの者が飢死うゑじにしてしまひます。もつとよく働きますから続けさして下さい。」芋虫は、呼吸が切れさうに苦しいのを押しかくしましたが、院長は返事もしないで腕時計を見て、
「や、君、もう時間だ。そろ/\出掛けやうか。」と尺取虫に言ひました。
 尺取虫は気の遠くなつたこほろぎを外にかつぎ出して、太鼓や、提灯ちやうちんそろへて、院長や病院の看護婦や近所のキリスト教の信者と一ママに、救世軍の歌を歌ひながら街へ出かけてしまひました。病院の玄関の傍に投げ出されたこほろぎは冷えた石に身体からだの熱をとられてたうたう死んでしまひました。だれも来ては呉れませんでした。病院の門には「救世軍慈善病院」と書いた大きな看板がかゝつてをりました。
    ×             ×
 太鼓をたゝいて出掛けた院長は、街の中程へ来ると、尺取虫に
「今晩の演説は何でもいゝ。君にまかせる。病人があるから、そつちへまはらねばならないから。」と言つて、金持の鈴虫のお嬢さんのうちへ参りました。
「いかゞです? お身体からだの工合は! あなたのやうにやさしく弱々しい生れ付きの方は、仲々シヤツクリ一つでも油断なりません。」
 院長は黙り込んでママ嫌の悪いお嬢さんにシヤツクリ止めの薬をのませたり話をしかけたりしました。が、お嬢さんの鈴虫は、院長の来るのがおそかつたのでしやくにさわつてゐたのです。
「お嬢さん、面白いお話をしませうか。今日、水にぬれたこほろぎが来ましてね、ただで病院に入れとくれていふんですよ。何でも、労働者のやうな人相の悪い男でしたがあんまり、図々しいので尺取虫が外へ追ひ出したんですがね、あなた方には一寸ちよつと想像出来ない事が下層社会の人間には平気で出ママるんですよ。」
「あら、こほろぎ? ぢや、私が泥水どろみづを窓からすてた時に下を通つてた男よ!」とお嬢さんは面白さうに話し出したと思ふと二三度くる/\まわつて血をはいて死んでしまいました。蜂はびつくりして呼吸が止りさうになりました。
「薬が利きすぎた。尺取虫が分量をまちがつたんだ。どうしよう。神様、どうぞこの女を生ママ返らせて下さい。あなたのお力を信じてゐます。雨に打たれ、にくわれ、私は毎晩、あなたのお力をひろめるために尽しました。神様! 今こそ私に報ひて下さい。」と祈つてお嬢さんを抱き上げましたが、お嬢さんは矢張り死んだきり起き上りませんでした。



小ぐまさん の かんがへちがひ



 ある日小ぐまさんがみちばたであそんでゐますと、おねこさんが通りがゝりました。お猫さんは、ふところから 赤いものをとりだして
「小ぐまさん、これなんだか知つてる?」とききました。小ぐまさんは 一目みて、それがほゝづきだとわかりましたので、
「あら、いゝのね。ひとつでいいから下さいな。」といひました。
「まあ、ひとつ下さいですつて。とてもね、大事なのよ、あげられやしない。」とお猫さんはいひながら、皮をむいて、ほゝづきの実をだしました。それをみると 小ぐまさんは、とても欲しくなりました。そして、自分のうちの畑のすみに、一本 ほゝづきの木があるのを思ひだして、
「ね、いゝでせう? 明日あした、二つにしてかへすから、ひとつだけ下さい。うちにほゝづきの木があるの。」といひました。お猫さんは、
「まあ、二つにしてかへしてくれるのなら一つあげませう。ぢやあ、あした、きつとね。」と指切りをして、ひとつ、くれました。小ぐまさんはうれしくて うれしくて、その晩 一晩、そのほゝづきを手のなかにいれて、ながめたり、着物をきせてお人形さんにしたりしてあそびました。
    ×      ×      ×
 その翌日あくるひ、早く起きて、小ぐまさんは畑にゆきました。そしてお昼ころまで、あつちこつちをさがしましたが、ほゝづきの木の影も形もありません。やつと見付かつたのは、ほゝづきの木によく似た、まるで別の木なのでした。小ぐまさんは、すつかり考へちがひをして、これをほゝづきの木だと思つてゐたのです。小ぐまさんはどんなに心配したことでせう。お猫さんがこれをきいたらどんなにおこるだらうかと思つて、大きい声をだして泣いてをりました。
 小ぐまさんの声があまり大きいので、お隣りのあひるさんがやつてきました。あひるさんは、たづねました。
「どうしたのですか、私にはなして下さい。」
 小ぐまさんは自分の心配を、あひるさんにはなしましたら、あひるさんは小ぐまさんをかわいさうに思つて、わあわあ泣きました。二人の泣き声があまりに大きいので、昨日きのふのお猫さんがやつてきました。小ぐまさんは涙で目がみえないので、お猫さんだとはしらず、自分の心配をすつかりはなしましたら、お猫さんは「かわいさうに、かわいさうに。」と泣きました。その声をきいて小ぐまさんは飛びあがるほどおどろいていひました。
「お猫さん、ほんとにごめんなさい。」お猫さんは、そこでやつと、昨日小ぐまさんにほゝづきをあげたのは自分だといふことに気がつきました。
わたし、すつかり、そんなこと忘れてゐました。」これをきいて、小ぐまさんはお猫さんが、おこつてゐないので、どんなにうれしかつたでせう。三人でおひるのごはんをたべましたが、小ぐまさんはみんなの倍の倍も食べられました。



ゴボウ君と大根君



 大根とごぼうが 一しよに暮してゐました。
 或日あるひ、大根の所へ 手紙が参りました。その時、大根は用事があつて外出してゐましたので ごぼうが代りに受け取りました。ごぼうは、なかに、どんな事が書いてあるか 知りたくてたまりませんでした。けれども、いくらごぼうでも、「ひとに来た手紙を、ことわりなく勝手に開ける事はよくない事である。」といふ位のことはよく知つてゐます。ごぼうは手紙を大根の机の上に置いて、大根の帰つて来るのを待つ事にしました。
 ところが、どうしたものか、大根は仲々帰つて来ないのです。で、ごぼうは、辛抱しきれなくなつて、手紙の封をピリピリと引きさいて、そつとひろげて見ると、こんな事が書いてありました。
「大根君、うわさによると、君は、大根のくせに、ごぼうと一緒に住んでゐるさうぢやないか。僕などは あのうすぎたない茶色の、毛だらけの、顔を見ただけで、気持が悪くなるよ。すぐに、こつちへ来て、僕たちと一緒に暮し給へ。白井しらゐ大根」これを読んだ時のごぼうの気持はどうだつたでせう。ごぼうはワアワアと 机にもたれて一時間以上も泣きました。何故なぜといつて、手紙に書いてあつた事は 全くほんとの事だつたからです。
 泣くけ泣いたごぼうは、鏡の前に行つて、カミソリで、毛をすりおとさうとしましたが、かたくてとれません。それからお風呂ふろにはいつて、皮のむける程 石けんでごし/\と身体からだ中を こすりまわしました。茶色の身体からだは 仲々白くなりません。たうたう ごぼうは 風邪かぜを引きました。
「ハクシヨン、ハクシヨン、ハクシヨン、ハクシヨン、ハクシヨン、ハクシヨン」クシヤミは とまりません。
 その時、やつとの事でうちに帰つて来た大根は、ごぼうが風呂場で 立てつづけに クシヤミをしてゐるのを見て、びつくりしました。
「おい、ごぼう君、どうしたのさ。」
「すまないことをしたんだよ、大根君、実は君に来た手紙をハクシヨン、ハクシヨン、ハクシヨン、ハクシヨン。」
「ごぼう君、どうしたんだよ。早く言ひたまへ、ぼくは、あんまり歩いたので、もう眠くて眠くて たまらないんだからね。」
「ぢや言ふよ。ハクシヨン。」言ひかけて、はづかしくなつたごぼうは 大根の耳の所へ 口を持つて行つて、
「実はね、君、ハクシヨーン
 ごぼうのクシヤミが、あんまり大きかつたので、大根は耳をおさへて とび上りました。そして、腹を立てて、自分の部屋の寝台にもぐり込んで 寝てしまひました。ごぼうも仕方なく 自分の部屋へ行つて 眠つてしまひました。
 あくる日起きた時には、大根もごぼうも、昨日きのふの事はすつかり忘れてしまつて、いまだに思ひ出さないで、ごぼうは元のまゝの茶色で、毛だらけの顔をして 平気で暮してゐます。お野菜ですから、それは致し方ありません。



三匹 の こぐまさん



 アヒルサンノトコロヘ、三匹ノコグマサンガアソビニユキマスト、アヒルサンハ、ナンダカ シキリニ、サガシモノヲシテヰマシタ。

 アヒルサンハ、三匹ノコグマサンニ、イヒマシタ。
「イマ、オトナリノハタケムラカラ、ヂヤガイモサンガ、アソビニキテヰタノデスガ、キウニヰナクナツタノデス。サガシテ下サイ。」

 三匹ノコグマサンハ、ソレヲキイテ、方々サガシマシタ。ケレドモ、ミツカリマセンデシタ。
 スルト、一匹ノコグマサンガ、パントテヲウツテイヒマシタ。
「キツト、オナベノナカダ。オナベノナカダ。」

 ソコデ、ミンナ、ハシツテ、ダイドコロヘイツテ、オナベノフタヲトリマシタラ、ソノナカニ、ジヤガイモサンガヰマシタ。オユデ、ウダツタノデ、ジヤガイモサンハイロガマツシロニナツテ、イゼンヨリモ、ウツクシクナリマシタノデ、ミンナオホヨロコビ。



三匹の小熊さん



 ある所に、三匹の小熊さんがお母さんと一緒に住んでをりました。
 朝になると、目覚し時計が、三匹の小熊さんを起します。
 三匹の小熊さんは、それから朝の御飯を頂きますが、今朝からは、牛乳を飲まなければなりません。何故といつて、牛乳は三匹の小熊さんの身体のためには一番いいものですから。
 けれども、困つたことに、三匹の小熊さんは、牛乳といふものは、にほひをかぐのもきらひです。そして、どうしても飲みません。それを見てゐたのが、戸棚の中の角砂糖さんです。箱の中から首を出しました。小熊さんたちは、牛乳は大きらひですが、角砂糖さんは大好きですから、今迄のシカメツ面はどつかへ飛んでしまつて、急に、ニコニコ致しました。
 お母さんは、それを見て、牛乳をおなべにうつして、その中へ、角砂糖さんを入れやうと致しますと、気のきいてゐる角砂糖さんたちは、水泳の選手のやうに、見事なダイヴイングをして、牛乳の中にはいつてしまひました。それで、やつと三匹の小熊さんは甘い牛乳をのみました。
 さて、三匹の小熊さんには一人のお友達があります。あひるさんです。あひるさんはお父さんと一緒に住んでゐました。
 あひるさんがベツドの中で寝てゐますと、あひるさんの大好物のどじようさんが、部屋の中にはいつて参りました。あひるさんは、ベツドからとび起きてどじようさんを追ひかけました。どじようさんは戸棚の中へ逃げこみました。あひるさんは、それを追ひかけて、戸棚の中へはいつてしまひました。
 あひるさんのお父さんは、あひるさんが仲々起きて来ませんので、お部屋へ起しに参りました。すると、あひるさんの姿が見えません。あひるさんのお父さんは心配のあまり、あひるさんのお友達の三匹の小熊さんに電話を掛けて、あひるさんを探し出してくれるやうに頼みました。
 三匹の小熊さんは、友達を探しに出掛けることになりました。お母さんは汽車賃に十銭玉を下さいました。
 三匹は停車場へ参りました。汽車に乗らうとしましたが、どこへのるのか、汽車に乗るのは初めてなので分りません。三匹は汽車の屋根に座り込みました。汽車はやがてトンネルにはいりました。三匹の小熊さんは屋根に乗つてゐたものですから、はねとばされました。三匹は、トンネルの上を一生懸命で駆け出して、やつと、トンネルを出た汽車の屋根にとび乗りました。あんまり力を入れてとび乗つたので、屋根をつきのけて、汽車の中へめり込みました。汽車の中へおち込んだ三匹の小熊さんは、汽車から外に、押し出されました。何故といつて、そこは、小熊さんたちの降りる所だつたからです。何といふ便利に出来てゐる汽車でせう。
 三匹の小熊さんは、それから探偵の犬さんの家へ、あひるさんの捜索を頼みに行きましたが、犬さんはこの寒さで、風邪を引いて、気がむしやくしやしてゐましたので、小熊さん等がいくら頼んでも窓をしめて返事を致しません。やつと探偵用虫眼鏡を借してくれました。あひるさんの家の方へ歩いて来ますと、雪が降り初めました。
 雪の中を、むかふから、何やらわからないムクムクしたものがやつて来ましたので、三匹の小熊さんは、虫眼鏡で見ますと、それは雪だるまのお母さんでした。お母さんはスキーに乗つてゐましたので、すべつてころびました。その時に、お母さんのさげてゐた包の中から、雪だるまの子供が三人ころがり出ました。三匹の小熊さんは、雪だるまのお母さんなどといふものを見たのは生れて初めてなので、あまり珍らしいものですから、虫眼鏡を、太陽の光にあてて雪だるまのお母さんをとかしてしまひました。
 雪だるまの子供は大変におこりました。そして、三匹の小熊さんを追つかけて参りました。雪の上を走りましたので、三匹の小熊さんは雪だらけになつて、おしまひには雪の玉になつて、コロコロころがりました。雪の玉は、ある一軒のお家の戸にぶつかつてこわれました。中から、無事に、三匹の小熊さんがころがり出ました。
 この家は、都合のよいことに、あひるさんのお家でした。あひるさんのお父さんはあひるさんがまだ見付からないので洗面器に一杯になる位涙をこぼして泣いてゐました。
 三匹の小熊さんは、あひるのお父さんを見て、大変気の毒に思ひましたので、直ちに、探偵に取りかかりました。三匹は虫眼鏡で方々を探しました。そして、やつと、床の上にあひるさんの足跡があるのを見付けました。足跡は、戸棚の前でとまつてゐます。戸棚を開けますと、そこで、呑気なあひるさんはグウグウ寝てゐました。あひるさんのお父さんはどんなに喜んだでせう。
 お父さんは三匹の小熊さんに、お礼のしるしに、どじようをくれました。三匹は、それをふくらまして飛行船にして、それに乗り込みました。そしてお家へ帰るのです。
 けれども、途中で、鳥が飛んで来て、飛行船をくちばしてつつき破りました。三匹は墜落して、ある家の煙突の中へ落ち込みました。
 幸なことに、そこは、小熊さんのお家でした。小熊さんはススのために真黒になつてしまひました。
 お母さんは三匹をお風呂に入れやうとしますが、三匹は、お風呂ときたら、毛虫よりもつときらひなので、砂糖だるの中や、着物の後や、カーペツトの下へもぐり込んでかくれてしまひました、お母さんは、やつとのことで三匹をひつぱり出して、お風呂に入れました。三匹はお風呂へはいつてしまふと、矢張りお風呂はあつたかくていいもんだなあとよろこんでニコニコしてゐます。そして、ほんとにそれにちがひはございません。



三匹ノ コグマサント キシヤ



 三匹ノコグマサンガ、ハジメテ汽車ニノリマシタ。ドコヘノツテヨイノヤラ ワカラナイノデ、ヤネニノリマシタ。風ガヒドクテ三匹ハ カゼヲヒキマシタ。

 シカタガナクテ、汽車ノナカノアミダナニモグリコミマシタ。ブラブラドンドン トユラレテカラダヂウガイタミマシタ。

 シカタガナイノデ、ユカノウヘニスワリマシタラ、洋服ガドロダラケニナリマシタ。

 ソコヘ車掌サンガキテ、三匹ヲ コシカケニ コシカケサセテクレマシタ。三匹ノコグマサンハ、「ナルホド、コレハイイグアイダ。」ト カンシンシマシタ。



十五夜のお月様



 大きい森のむかふから、ブルブルブルと小さい音が響いて来ました。木の上でねてゐた真黒まつくろな小人はそれを聞くと、とびおきて、青い着物をきて、赤い帽子をかぶつて音のする方へ飛んでゆきました。
「お月様、今晩は。ずゐ分早くおでかけですね。」と、小人が申しました。ブルブルと音をたててゐたのは赤いお月様でした。
「たくさんの子供たちが、あなたのいらつしやるのをどんなに待つてゐるでせう。さあでかけませう。」と小人は言つて、お月様と二人で森を出て、野原をとほりすぎて、街にまゐりました。
「お月様。街のあかりはどうしてあんなに赤くてきれいなんでせうね。うちにはみんな窓がついて、きれいだなあ。おや、あのうちの窓からかわいゝ女の子が、お月様とぼくとを見て笑つてゐますよ。」と小人が指さしました。
「ほんとに、わたしたちの方を見て笑つてゐるやうですね。おや、あれは私の子供ですよ。」とおつしやいました。
「え? ほんとですか。お月様。」と、小人はびつくりしました。
「ほんとですとも。うそと思ふならあすこへ行つてきいてごらんなさい。」と、お月様はお笑ひなさいました。
 そこで小人は大いそぎで、一とびに女の子のゐる窓にとびついて、
「今晩は。かわいいお嬢さん。あなたはお月様の子供ださうですが、ほんとですか。」とききますと、女の子は、
「えゝ、さうです。わたしはお月様の子供です。」と笑ひました。
「ほんとに、あなたのお顔はお月様のやうにきれいですね。あなたはこのうちで毎日なにをしていらつしやるのですか。この街はほんとに美しい街ですね。」と、小人が聞きました。
「このおうちわたしうちで 赤いきれや、おもちやや、いろんなおもしろいお話をかいた本をうつてゐるのです。そのなかには、あなたのことも、お月様のこともかいてありますよ。私は毎日、そんなご本をよんだり、お人形をつくつたりしてあそんでゐます。私は、小さい時に、お月様のところから、このうちへもらはれて来たのですよ。これをお月様にさしあげて下さい。」と、女の子は、自分の頭から 赤いリボンをとつて、小人にわたしました。小人はそれをもらつて、またお月様のあとをおつかけました。お月様は女の子にもらつたリボンを、頭におかけになりました。お月様はまるでかわいゝかわいゝ女の子に見えました。
「まあ。お月様。あなたがそのリボンをおかけになるとあの女の子にそつくりですよ。」と、小人が大よろこびで言ひました。お月様もたいへんうれしさうに、その晩中、ニコニコと笑つていらつしやいました。
 その晩は丁度ちやうど十五夜でした。



しんばい



「けふは、あんまり いたづらばかり したので、もう ぼくは いい こに なれなく なりや しないかと、しんぱいだ。かあさん。」
「そんな こと ありませんよ。あしたからでも、いい こに ならうと おもへば、きつと なれますよ。おやすみなさい。」
(母でてゆく。)
「かあさんは ああ いふけれど、しんぱいだなあ。こんばんから おけいこを しよう。どう したら いいか しら。さうだ。きをつけを したまま ねて やらう。」
(ひとりごと)



スナマンヂウ



 ヒガ カンカン テツテヰルノデ ジロウハ アツクテ タマラナクナリマシタ。
 カイガンノ スナハ サワルト アツク ヤケテヰマシタ。
「スナマンヂウヲ ツクラウ。タイヨウデ ウマク ヤケルダラウ。」
 ジロウハ ウミニ ハイツテ ブリキノバケツニ ミヅヲ一パイ クミマシタ。
 ナミハ ジヤブリ、サラ、サラ、ト ジロウノ ハダカノアシニ カカツテハ ヒイテユキマス。
 ジママウハ アツイスナノトコロヘ モドツテ スナトミヅヲ マゼテ オマンヂウヲ コシラヘマシタ。一ツ、二ツ、三ツ、四ツ、五ツ、六ツ。
 ヒニ テラサレテ オマンヂウガ ウマク ヤケルマデ ジロウハ ウマニナツテ スナノウヘヲ トホクマデ カケテユキマシタ。
 ピヨン、ピヨン、パカ、パカ、ピヨン、ピヨン、ポコ、ポコ。
 ジロウハ カケマワリナガラ オホキナコエデ ウタヒマシタ。
「アツイ アツイ
デキタテノ スナマンヂウ。
スナマンヂウガ デキタラ パカ、パカ
ピヨン、ピヨン、パカ、パカ
オウマニ ツンデ
マチヘ ウリニ ユキマセウ。」
 シバラクシテ モウ ウマク ヤケタラウト オモツテ オマンヂウヲ オイタトコロヘ カヘツテキテミルト オマンヂウハ 一ツモ アリマセン。
ジヤブリ、サラ、サラ。
ジヤブリ、サラ、サラ。
ト チヒサナ ナミガ ヨセテハ カヘシテヰマス。
 オマンヂウハ ドコヘイツタノデセウ?
 ジロウハ ナキダシマシタ。
 オカアサンガ キテ オツシヤイマシタ。
「オマンヂウハ ナミガ ミンナ タベテシマツタノダヨ。」
 ジロウハ トビアガツテ オホキナコエデ ウタツテ ワラヒダシマシタ。
「チママサナ ナミガ ボクノ スナマンヂウヲ タベチヤツタ ワツハツハ。
 チママサナ ナミガ ボクノ スナマンヂウヲ タベチヤツタ、ワツハツハ。」
 スルト ナミモ ウタツテ ヰマス。
「ジヤブリ、サラ、サラ、
スナマンヂウハ ダイスキダ。
ジヤブリ、サラ、サラ、
スナマンヂウハ ダイスキダ。」



ザウサン サルサン



 アルトコロニ タイヘン オギヤウギノヨイ ザウサンガアリマシタ。アサハ ダレニデモ バウシヲトッテ、「オハヤウゴザイマス。」ト、アイサツヲイタシマス。ヨルハ ダレニデモ バウシヲヌイデ、「コンバンハ。」ト、イヒマス。
 ソレデ、ミンナカラタイソウ ホメラレテヲリマシタ。トコロガ イヂノワルイ オサルサンガ、「ザウサンハ タイヘン オギヤウギガヨイトイッテ ミンナガホメルケレドモ、バウシヲトルノニ テデトラナイデ、ハナデトルデハナイカ。ズヰブン オギヤウギガワルイヤ。」ト、イッテワラヒマシタ。
 スルトミンナガ、「ザウサンハ アシモ テモツカヘナイカラ、ハナデトルノダヨ。キミハ テガツカヘルクセニ アシデ、ナンキンマメノ カハヲムイテ、タベルヂヤナイカ。」ト、イヒマシタ。オサルサンハ タイソウハヅカシクナッテ、アカイカホヲ モットアカクシマシタ。



ゾウ ト ネズミ



 あるところに、ぞうさんとねずみさんがゐました。ぞうさんはわがまゝで、おこりんぼで、ねずみさんは、おくびやうで、こわがりやでした。そのふたりが、とてもなかのよくなつたおはなしです。もと、ふたりは、かういふふうに、せいしつが、たいへんちがつてゐたので、がつかうで、おなじつくゑでべんきやうをしてゐましたが、どうしても、なかよくすることができませんでした。
 なぜといつて、ぞうさんは、おひるのごはんのときには、いつでも、わらだの、かすぱんなどをもつてきて、ねずみさんが、にくだの、おこめなどをたべてゐるのをみると、すぐ、おとなりから、はなでつつくのです。「ねずみくん、おいしさうだなあ、すこしぼくにもわけてくれないか。」といひますので、ねずみさんはこわいので、だまつて、ちひさくなります。ぞうさんは、えんりよなく、ねずみさんのおべんたうをたべてしまひました。ねずみさんは、それでもおこりません。ただこわくてこわくてしかたがありませんでした。
 ところが、あるひのこと、ねずみさんは、がいこくからかへつたおぢさんから、ぼうえんきやうをいたゞきました。それをもつて、がくかうにまゐりました。すると、ぞうさんが、やつてきて、「それなんだい、ぼくにちよつとかしてくれたまへ。」といひましたが、らんぼうもののぞうさんにかしては、こわされてしまひさうなので、「ぞうさん、これ、なんでもないんだよ。こんなふうにしてのぞいてゐるだけだよ。」といひました。ぞうさんは、しつぽをぴりぴりとふるはせて、おこりはじめました。ねずみさんは、ぼうえんきやうに、めをあててみせました。すると、ねずみさんは、きゆうにわらひだしました。ぞうさんは、ますますおこりました。ぞうさんがおこるほど、ねずみさんは、おほわらひしました。ぼうえんきやうからみえたぞうさんは、まめつぶほどちひさくて、一ちやうもむかふのほうにゐるやうでした。ぞうさんはおこつて、ぼうえんきやうをねずみさんからひつたくつて、めにあてました、「やあ、なんて、りつぱなねずみくんだらう。」とぞうさんはびつくりしました。
 ぞうさんは、ねずみさんとは、ぎやくに、めがねをめにあてましたので、ねずみさんは、やまのやうにおほきく、りつぱにみえました。「や、どうも、ありがたう。」と、めがねをはづして、ねずみさんに、わたさうとしましたら、ねずみさんは、それはそれは、ちひさくみえましたが、なんだか、とても、りかうにみえましたので、どうしても、「これ、ぼくのえんぴつととりかへつこしようや。」とはいひませんでした。
 ねずみさんは、だんだん、ぞうさんがこわくなくなりましたので、ぞうさんに、さんじゆつや、よみかたのわからないのををしへてあげたりしました。そして、すつかり、なかよしになりました。



たまごとおつきさま



 むかし、のはらの一けんやに、にはとりが一羽すんでゐました。そののはらのむかふには、ひくい、きれいな山が三つならんで立つてゐました。
 ある、月のいゝばんのこと、そのにはとりが、玉子を一つうみました。そのたまごに、丁度のぼつてきた月が、光りをさしかけましたので、たまごは、それは美くしくて、しんじゆのたまのやうに見えました。
 にはとりはうれしくてたまらないので、玉子ばかり見てゐました。けれども、そのうちに、玉子は、だん/\消えていつて、かげばかりになり、おしまひには、そのかげさへも見えなくなつてしまひました。
 ぼんやり、それを見てゐたにはとりは、たいへんびつくりして、おつきさまのところへかけて行つて、
「おつきさま、どうぞ、わたしのたまごを、かへしてください。」とたのみました。
 すると、こんどは、きふに、おつきさまがわらひながら、だん/\しぼんで、たまごになつてしまひました。
 にはとりは、たいへんよろこんで、
「ほんとですか、おつきさま、これがわたしのたまごですか。」といつて、それを羽の下に入れようとしますと、それが、見る間に大きくふくれて、三つならんだやまのむかふから、おつきさまになつてのぼつてきました。
 あくるあさ、にはとりが目をさまして、のはらにいつてみますと、まへのばんのおつきさまが、しろくすきとほつて、空にのぼつてゐました。そこで、にはとりはおほきいこゑでなきました。
「それは、たまごか? おつきさまか? コケツ、コケツ。」



チユウちやんのおたんじやう日



こんちはおめでたう
お花をあげましよ
私はあなたの大すきな
オランダ人形のペチ子ちやん。

長いお鼻で
おくわしの車を
えつさ えつさと
おして来たのは
印度インドうまれの象さんよ。

麦 麦 お麦
ぽつくりお麦を
袋につめて、
ぽこ、ぽこ来るのは木馬さん。

「さらさらおさとうの、
おいしいおくわしは
今晩めしあがれ。
私はイギリス生れの
マリ子ちやん。」

白い羊さんは
ビスケツト、一袋
羊の毛のやうに
ほか、ほかやはらかい
はくらいビスケツトを
一袋。

ロシア生れのニコライさん、
ロシアのバタを
おせなにのせて
ニコニコニコニコ
やつて来た。

ちゆうちやんは、
かわいい
りかうなこねずみ。

けふは
ちゆうちやんの
おたんじやう日。



トントンピーピ



 もうぐらもちはころころころ、おてゝはみぢかし、しつぽはないし、ころころころげてにげたれど、トントンピーピのわるとびに、とうとうおくつをさらはれた。

 こすゞめすゞめは チユウ チユウ チユウ
「チユウ チユウ チユウ チユウ チユウ チユウ チユウ。かあさんすゞめきておくれ。かあさんすゞめきておくれ。わたしのだいじなからかさを、トントンピーピのわるとびが、わるとびが、とうとうさらつてとんでつた。」
 こすゞめすゞめはあめにぬれ、ぬれぬれなけど、ないたけど、かあさんすゞめはやぶのなか。やぶのなか。

 あをい葉ばかりのぐみの木は、あをい葉ばかり、日はてれど、あをい葉ばかりぐみの木は。

「あかいぐみの実をみせとくれ。みせとくれ。」
まつくろくろありがきいたらば
「トントンピーピのわるとびが、これはきれいだ、きれいだと、ほめほめちぎつて、またほめて、ほめほめちぎつてとんでつた。」あをい葉ばかりのぐみの木は、あをい葉ばかりのぐみの木は。

 おひげなくした白ひつじ、あつちへむいちや
「ごめんなさい。」
こつちへむいちや
「ごめんなさい。トントンピーピのわるとびに、おひげとられてごめんなさい。」ともだちひつじにわらはれて、かほはあかあか白ひつじ。
「おひげなくしてごめんなさい。」

「ピーピーピーピー今日は。としよりおうちの、こなやさん。」
「おや おや これはトンピーさん。なにかごやう。トンピーさん。」
 トントンピーピのわるとびは、ぬすんだおくつをひからせて、あかいぐみのみをはねにつけ、白いおひげをはりつけて、はりつけて、からかささしてやつてきた。あめもふらぬにかささして。
「ほんとにごりつぱなトンピーさん。トントンピーピのとんびさん。」
 トントンピーピのわるとびは、としよりおうちにほめられて、ほめられて、つんつんつんとそりかへり、
「としよりうちさんみておくれ。ひかつたおくつをみておくれ、あかいかざりをみておくれ。まつしろおひげをみておくれ。からからからかさみておくれ。」
 としよりおうちはおどろいた。おどろいた。
 ぐみの実、しろひげ、ひかつたくつ、からかさからかさ、大じけん。きのふのしんぶんの大じけん。もうぐらもちはないてるし、こすゞめすゞめはしかられた。かあさんすずめにしかられた。からかさとられてしかられた。かわいさうなぐうみの木。はじかきひつじ、白ひつじ。トントンピーピのわるとんび。きのふのしんぶんの大じけん。
 おくつとられたもうぐらもち、なくなくつちへもぐりこみ、もぐりこみ、一丁目、二丁目、三丁目、四丁目の角へくびだした。四丁目の角はこなやさん。としよりおうちのこなやさん。おくつとられたもぐらもち、四丁目の角へくびだした。
「やあ、やあ、これはぼくのくつ。ぼくのくつ。」トントンピーピのわるとびの、はいてるおくつをそつととり、五丁目、六丁目、七丁目、あともみないでかけだした。

 からかさとられたこすずめが、こなかひにチユウチユウやつてきた。やつてきた。

「これはわたしのからかさだわ。」トントンピーピのわるとびのおいてたからかさそつとさし、そつとさし、こなをかつて チユウ チユウ チユウ、やぶのおうちへとんでつた。

 おひげなくしたしろひつじ、ともだちひつじにわらはれて、おかほあかあかしろひつじ。はじかきひつじがこなぬりに、あかいおかほへこなぬりに、としよりお家のこなやさん、こなやの店へやつてきて、
「やれ、やれ、これはトンピーさん。ぼくのひげだよ。このひげは。」おひげなくしたしろひつじ、はりつけおひげをはいでつた。しろしろしろしろしろひつじ。

 こぼれたこなをえつさつさ えつさ、えつさ、えつさつさ。まつくろくろ蟻えつさつさ。まつくろくろくろくろくろ蟻は、千匹、二千匹、三千匹、ぞろぞろぞろぞろぞろぞろ、トントンピーピのわるとびのはねにかざつたぐみのみを、ぞろぞろぞろぞろもいでつた。あをい葉ばかりのぐみの木へ、ぞろぞろぞろぞろひいてつた。あをい葉ばかりのぐみの木は、ほろほろほろほろなきだした。うれしなきなきなきだした。

 トントンピーピのわるとびは、おくつはないし、ひげもなし、きたないはねにやかざりなし。きまりわるさにピーピーピー トントンピーピーなきだした。

 日はくれがたのうすぐもり、ぽつつり、ぽつつり、大あめが、ぽつつり、ぽつつり、ふつてきた。としよりおうちのこなやさん。としよりおうちは大あわて。
「こなやにや、あめは だいきんもつ、あめのこぬまににげださう。」こなやの、こなやの、としよりおうち、とつとこ、とつとこ、にげだした。とつとことつとこにげだした。
「からかさはどこだ。からかさはどこだ。」トントンピーピーのわるとびは、あめにぬれぬれからかさを、さがしたけれど、からかさは、こすゞめすゞめのやぶのなか、やぶのなか。



泣いてゐるお猫さん



 ある所にちよつと、よくばりなおねこさんがありました。ある朝、新聞を見ますと、写真屋さんの広告が出てゐました。
「写真屋さんをはじめます。今日写しにいらしつた方の中で、一番よくうつつた方のは新聞にのせて、ごほうびに一円五十銭差し上げます。」
 お猫さんは鏡を見ました。そして身体からだ中の毛をこすつてピカピカに光らしました。そして、お隣のあひるさんの所へ行きました。

「あひるさん、今日は。すみませんけど、リボンを貸して下さいな。」と言ひました。あひるさんは、リボンを貸してくれて、
「お猫さん、どうか、なくなさないでね。」と言ひました。お猫さんは、それを頭のてつぺんにむすんで、写真屋さんへでかけました。歩いてゐるうちに、
「早く行かないと、お客さんが一杯つめかけて来て、うつしてもらへないかも分らない。」と思ふと、胸がドキドキして歩いてゐられません。といつて、猫の町には円タクはなし、仕方がないので、大いそぎでかけ出しました。

 写真屋さんへ来ました。お猫さんはもう一度鏡の前で、身体からだをコスリ直しました。そして、頭を見ましたら、リボンがありません。あんまり走つたので、落してしまつたのです。
「さあ、うつりますよ。笑つて下さい。」と、写真屋の犬さんが言ひましたけれども、リボンのことを考へると、笑ひどころではありません。今にも泣きさうな顔をしました。

 写真をうつしてしまふと、お猫さんはトボトボとおうちへ帰つて来て、鏡を見ました。涙がホツペタを流れて、顔中の毛がグシヤグシヤになつてゐました。
「これぢやあ、一等どころかビリツコだ。」と思ふと、又もや涙が流れて出ました。
「あひるさんのリボンを買つてかへすにもお金はなし……」と思ふと、又もや涙が流れ出ました。ところが、あくる日、おそる/\新聞を見ますと、
「泣いてゐるお猫さん。一等」と大きな活字で書いてありました。お猫さんはとびあがる程よろこびました。そして写真屋さんへ行つて一円五十銭もらひました。

 お猫さんはそれを大切にお財布に入れて、あひるさんの所へ行きました。行きながら、「リボン代をこのお金で払ふことにしやう。まあ、せいぜい五十銭位なものだから、一円はのこる。」と思ひました。

 お猫さんはあひるさんに言ひました。「どうか、リボンのお値段を言つて下さい。遠慮なくほんとの所を。」と言ひました。あひるさんは言ひました。ほんとの所を。「ほんとの所はあれは一円五十銭なんですの。」
 お猫さんはぼんやりしてしまひました。けれども仕方ありません。一円五十銭あひるさんに払ひました。お猫さんのお財布の中には幾銭のこつてゐますか? 皆さん、計算してください。



泣き虫の小ぐまさん



 小ぐまさんは大変泣き虫でした。朝から晩まで、泣いてばかりゐました。
 ある朝、目を覚まして、お床のなかでじつとしてゐますと、ふいに、鳥小屋のにはとりが「コケコツコー。」となきました。それをきいて、小ぐまさんは、つい、もらひ泣きをしました。が、気がついて見ると、自分ながら、あまり馬鹿々々ばかばかしいので、かう決心しました。
「にはとりのくせに、なくなんて生いきだ。」
 そして、鳥を野原の真中まんなかへもつて行つて、逃してしまひました。それからといふものは、いままで、毎朝食べてゐた、おいしい卵を食べることが出来ないので、小ぐまさんは、一日五十もんめづゝ、やせてゆきました。
 る時、いつもなる、時計が、時を打ち初めましたが、あひにくと、十二打ちました。がまんのならない、長さです。それで、小ぐまさんはいやになつて泣きだしました。そして、あとで腹を立てて、たう/\村の古道具やへその時計を売つてしまひました。それからと言ふもの、お昼頃になつても、ごはんを食べなかつたり、学校へ夕方出かけて行つたりして、小ぐまさんも自分ながらこれには困りました。
 夜になると、電燈がつくのですが、その光りで目がくら/\したものですから、悲しくて、涙が出て仕方がありません。電燈会社にたのんで電線をどけてもらひましたので、夜になると、本箱につまづいたり、窓から外に出やうとして、ひざを打つたりしました。
 けれども、小ぐまさんは、ラヂオを持つてゐたので、その位は、平気でした。椅子いすにこしかけて、一晩中、聞いてゐればいゝのですから。けれども、ある晩、ニユースを聞いてゐますと、かうなのです。
「あなたがたに、さしあげやうと思つて、谷間へみつを取りに行きましたが、はちにめつかつて、ひどい目にあひました。」小ぐまさんはこれを聞いて、すつかり悲しくなつてラヂオをこわしてしまひました。
 卵はたべられないし、ごはんはたべないして、大変やせてしまつて、病気になりました。
 それで、心配した近所の人たちが相談して、必ず、泣き虫がなほる「荒熊病院」へ入院させました。そして、すつかり、泣き虫が、なほつたさうです。みなさんの中で、どなたか、荒熊病院に入院しなくちやならない方はありませんか?



二階の窓までのびたチユーリツプ



 あるおうちに かあいいおねこさんがかはれてゐました。えりまきのかはりにもも色の首輪をつけて、たいへんハイカラにみじまひしてゐました。
 或日、お庭をさんぽしてゐると、とつぜん、目のまへの土がムクムクとふくれて、その中から小さい草の芽が 頭をだしました。お猫さんはそんなものを見たのは はじめてでしたから、腰をぬかさんばかりにおどろきましたが、心をしづめて、「こんにちは、もぐらもちさん」といひました。草の芽は大さうおこつて「私、もぐらもちぢやありませんわ。チユーリツプといふ花の芽よ。」
 猫は鼻のさきで せせらわらつて、
「土の中から、ムクムク出て来るのは もぐらもちにきまつてゐるさ。」といひました。
「いいえ。私、チユーリツプよ。私の咲かせる花は あなたの首輪とおなじもゝ色だけれど、うつくしいことにかけては もつともつとうつくしいの。」まけぎらひなチユーリツプは、ツンとすましていひました。
 お猫さんは、おほわらひしました。
「もゝ色の首輪をしたもぐらもちなんて、ぼくうまれて いちどもみたことないや。」
 チユーリツプの芽は、腹がたつてもうがまんができなくなりました。
「ぢや、みていらつしやい、私がもぐらもちぢやなくて、チユーリツプだつてことを、たつたいまここでみせてあげるから。」さういつて、全身に力をいれました。ところが、あんまり力を入れすぎたので、みるみるうちにたいへんな、いきほひでのびました。またたくうちに屋根をこしてお二階のまどのところまで とどきさうになりました。チユーリツプはびつくりしてやつとのことで、ふみとまりました。そして、そこで それはそれは、うつくしいもゝ色の花をさかせました。
 ちようどお二階のまどのうちで、あたゝかい日をあびて本をよんでゐた、本子もとこ奥さんは 去年の秋まいた、せいぜい一尺も大きくならないはずのチユーリツプが、屋根をこすほど長くのびてゐる ふしぎな光景をみて、あつけにとられました。いくらかんがへても、そのわけがわかりませんでした。
 本子奥さんは、家ぢうをかけまわつてさがしましたが、二階のまどのとゞくやうな長つたらしいチユーリツプをいけられるやうな花瓶は、みつかりません。皆さんはあるとおもひますか? しかたなくはしごをかけて本子奥さんは屋根に上つて、チユーリツプのあたまだけとつて、小さい花瓶にさしました。
 そんなわけで、お猫さんと本子奥さん以外にはだれも背高のつぽのチユーリツプのことをしりません。皆さん、腹をたてて、むきになるとこんな珍妙なことがおこります。



にはとり は みんな しあわせ



 あるところに、にはとりのたまごが 八つありました。みなさん ごぞんじの やうに、そのなかには、ひよつこが はいつてゐます。
 ところが、そのなかの 一わの ひよつこが そとにでたくなつて、なかから、からを、コツツン、コツツン、コツツンと つついて、ちひさなあなを あけました。
 それから、そのあなに ちひさい くちばしを つつこんで、ガリ、ガリ、ガリ、ガリと ひつかきまわしましたので、からは メリ、メリ! と われて、ひよつこの きいろいあたまが みえました。メリ、メリ、メリ、メリ※(感嘆符二つ、1-8-75) からが、まんなかから 二つにわれて、ひよつこが とんででました。すると、むかふのはうで、
「コケツコツコ コケツコツコ コケツコツコ こつちへおいで、はやくおいで」とおかあさんの めんどりがいひました。ひよつこは とても うれしかつたので、
「ピーツク ピーツク ピー ピーツク ピーツク ピーツク ピー ピーツク はい、いますぐ、ピーツク ピー」とそばへ はしつてゆきました。
 メリ、メリ、もう一つのたまごが われさうになりました。なかでは ひよつこが 一しやうけんめいに、コツツン、コツツン、コツツン、つついてゐます。
 コツツン、メリメリ、コツツン メリ、コツツン、メリメリ、コツツン、メリ コツツン、メリメリ、コツツン、メリ、八つのたまごは つぎつぎに メリメリメリメリメリメリメリと われて、なかから、八つの かわいらしい ひよこがうまれました。
 ひよこたちは、みんな、ちひさなあしで ピヨン ピヨン、チヨコ、チヨコと はねたり かけたり、おほさわぎ。そして、ピーツク、ピーツク、ピーツクと おかあさんの めんどりのそばへ はしつてゆきました。
「コケツコツコ、こつちですよ、コケツコツコ、こつちですよ。」と おかあさんの めんどりは ひよつこを おいしいたべもののところへ つれてゆきました。
 そのうちに、八わの ひよつこたちは だんだんに おほきくなつて、きいろかつたはねは、いろんな きれいないろに かわり、あたまのうへに あかいとさかがはえて みんな 一にんまへの にはとりになりました。
 ところが、そのなかの たつた一わの にママとりの とさかだけは、ほかの にママとりたちの とさかよりも どん、どん、おほきくなつて ゆきました。
 あるあさ、そのにママとりが、おひさまの でてくる すがたを みると、しらないうちに、くちがおほきくあいて、こんなこえが、のどのおくから でてきました。
コケコツコー
コケコツコー
 そのにママとりは じぶんながら、そのこえが いさましかつたものですから、つづけざまに
コケコツコー コケコツコー
コケコツコー コケコツコー
と むねをはつて、こえをはりあげて なきました。
 そのこえを きいた あとの にママとりたちは びつくりしました。そして、じぶんたちも、あの いさましいこえをださうとして、おほきくくちを あけて、うんうん ちからを いれました。けれども、そのこえはいくらきばつても
コケツコツコ、コケコツコ
コケツコツコ、コケコツコ
としか でません。そして、どうしても、あありつぱにコーケコツコー と なくことが できませんでした。なぜだかわかりますか みなさん? あとの にママとりは みんな、めんどりだつたからです。
 めんどりたちは がつかりしてしまひました。でもけつして、がつかりしてしまふなんてことは ありません。めんどりたちは こやのなかへ はいつていつて それぞれ、きれいな おほきな たまごを うみました。そこでめんどりたちは、かういふ うたをうたひました。
「コケコケコツコ コケツコツコ
わたくしたちは うたへません
けれども、まいにち、一つづつ
きれいな たまごをうんでます。」
 するとすぐに、おんどりになつた一わが うたひました。
「コケコツコー コケコツコー
ほんとにさうです、さうですとも、
ほんとにさうです、さうです。」
 そして、このうたを まいにち うたひながら、みんな、みんな、なかよく、しあわせに くらしてゐます。



ネコ ノ オバアサン



 タイヘントシトツタオバアサンネコガ、オヒルコロニナツテメヲサマシテ、ベツドノウヘヘオキアガリマシタ。オバアサンハ、セイヨウネコデシタカラ、ナイト・キヤツプトイフヅキンヲカブツテ、ナイト・ガウントイフネマキヲキテ、メガネヲカケテヰマス。「アア、チツトモ、オチツイテネムレナカツタ。イマイマシイ。ナンダカサムクツテシカタガナイカラ、コノナカデ、ホンヲヨミマセウ。」ト、ヨツピテグツスリネコンダノニ、マダネタイデスガ、メガサメテシマツテネムレナイノデ、ホンヲヒロゲテヨミマセウトシマストキウニ、マドノスグソトデ、パタパタトハシリマハルオトガシマシタ。「オヤ、ナンダロ。」ト、オバアサンハプリプリシテ、マドノソトヲミマシタラ、キンジヨノミケ子トトラ三ガ、ランニングヲシテヰマシタ。「ヤカマシイコトバカリシテ。ワタシガ、ヨクネムレナカツタノヲシラナイノカ。ホントニ、ヨノナカハヒトノキヲシランヤツガオホクテコマル。」トヒトリデ、ブツブツオコリナガラ、マタホンヲヨミハジメマシタ。
 オバアサンガ一字ヨムカヨマナイウチニ――オバアサンハ、ムツカシイ字ヲヨムトキハ一字ヨムノニトテモ時間ガカカルノデス――マドノソトデ、ハリサケルヤウナオホキナオトガ、キコエマシタ。ソシテ「ソラ、タマガトンダヨ。トツテキテ、ハヤクナゲルンダヨ――」ト、トラ三ガドナツテヰタノデ、オバアサンハビツクリシマシタ。「コリヤイカン。サツキヨリ、マダヤカマシクナツタ。ヤキユウヲシテルンダナ。ヤキユウヲスルノニ、ダマツテデキナイナンテ、ナンテ、バカナ小僧タチダ。」オバアサンハ、ベツドノウヘデオコツテヰマシタガ、「モウシカタガナイ。ココヂヤアネムレナイ。アサゴハンデモタベルトシヨウ。」トプリプリシテ、オダイドコロヘオリテユキマシタガ、マダ、オシタクガデキテヰマセン。オバアサンハ、マスマスオコリマシタガ、シカタガナイノデ、オザシキノアンラクヰスニコシヲカケマシタラ、タウトウキモチガヨクナツテ、マユヲシカメタママネムリコンデシマヒマシタ。
 ユウガタニナリマシタ。「ナンテ、オモシロカツタンダラウ。アシタマタアソバウヨ。」ト、ミミガヤブケルヤウナオホキナコエヲシテ、ミケ子トトラ三ガ、マドノソトヲトホツテユキマシタラ、オバアサンハヤツトメヲサマシマシタ。オバアサンハハラガタツテシカタガアリマセン。「ヤキユウヲスルノニ、コエヲダサナイデスルトイフワケニハユカンモンデスカネ。」ト、アフヒトゴトニオコリマシタ。
 ネコノオバアサンハ、マイニチ、コンナフウニクラシテヰマス。ケレドモ、オバアサンハヨイネコデスカラ、ケツシテコドモガドンナニヤカマシクシテモ、ドナリツケタリハイタシマセン。



ねずみさんの失敗



 ねずみさんはとてもなまけ者です。そのねずみさんが、ねずみさんのおかみさんの部屋にとんで帰つて言ひますのに、
「おかみさんや、早く着物を着換えなさい。一番いい着物に。帽子も一等いいのに。それから、わしにも一番いい服を出しておくれ。」
 おかみさんは、ねずみさんの言ふことがよく分らないので、返事をしませんでした。ねずみさんは、大きな声でどなりました。
「下のうちのチユウチユウさんのところへ遊びに行くんだから。」おかみさんはしぶしぶ、「チユウチユウさんのところへ? 何しに行くんです。」と聞きました。ねずみさんは、
「それがさ、まあお聞き。今ね、わしがチユウチユウさんのとこの前を通つたのさ。そしたらお前、あぶらあげ、ね。あぶらあげを焼いてるにほひがプンプンしてんだよ。早く、遊びに行けば、きつと、分け前がもらへるよ。さ、早く早く。」と呼吸いきを切らして言ひました。
「ほんと? ぢや早くしないとお前さん、駄目だめになつてしまひますよ。早く、早くつたら。」とおかみさんも仲々慾張よくばりでしたから、二人で大あわてにあわてて仕度をして出掛けました。
 二人は目の色を変へてお庭を走りぬけて、大きな門のそばを通つて、やつとこさ、大きなお部屋の前まで来ました。「おや、みちをまちがつたやうだよ。困つたなあ。」とねずみさんは、こわごわなかを見ましたら、そこには、山のやうに大きなおもちやのくまさんがすわつてゐました。二人はビツクリしてしまひましたが、こんな事ぐらゐで引つかへすなんて事は出来ません。二人とも、とてもおとなしく、そして、頭を床にすりつける位低くおぢぎをして、「熊さん、私たち、路に迷つて、大変困つてをりますのですが、チユウチユウさんとこはどつちでございませうか。早く参りませんとあぶらあげの分け前をいただかれなくなりますから、早く教へて下さいませんか。」と言ひました。
 熊さんはとてもをかしかつたので、フキ出しながら、
「お前さんみたいな夫婦はきつと道をまちがへるね。この机の上の穴を通つて、地下室へおいで。そこがチユウチユウさんのとこだ。」
 二人はその路を出来るだけ[#「だけけ」はママ]はやくかけ出して、やつとチユウチユウさんのうちへ参りました。
「ごめん下さい。」とねずみさんが言ひますと、チユウチユウさんとそのおかみさんは、あぶらあげをたべたばかりの口をふきながら、出て来ましたので、ねずみさんとおかみさんはがつかりして、腰がぬけさうになりました。
「チユウチユウさんとこへなぞ、一生もう行くもんか。」と二人はプンプンおこつて帰つて来ました。気の毒なお話ですね。



はちとくま



 一匹の子ぐまが、森のなかから、のこ/\と日あたりのいい、のはらに出てきて、倒れてゐた丸太の上にこしをおろして、うれしさうにフフンとわらひました。
 子熊はふところから、はちみつを入れたつぼをとりだして、ゆびでしやくつて、ちび/\なめはじめました。
「いつたべても、うまいのははちみつだ。はちみつにかぎる。あまくつて、おいしくつて。」とひとりごとを言ひながら、せつせとなめてをりました。
 すると、そこへ、一匹のみつばちが、ブーンととんで来て、子熊の帽子のまはりを、ぐるぐるまひながら、言ひました。
「子熊さん。ぼくは、ほんとに、はらが立つてたまらないよ。」
「何がはらがたつんだ。僕はなんにも、君にわるいことなんかしたおぼえはないよ。」と、子熊は、やつぱり、みつをたべながらこたへました。すると、みつばちは、
「だつて、君、かんがへてみたまへ。君は、僕たちが、長い間、くらうをしてためたみつを、それこそ、べろ/\と、見てゐるうちになめちまうんだもの。これくらゐ、はらのたつことはないよ。」と、羽をふるはせて言ひました。
 子熊は、かう言はれて見ると、何だかはちに、気の毒なやうな気持になりました。そこで、
「はちくん。そんなにおこらないでくれ。そのかはりに、僕は、君をいゝところへつれてつてあげよう。」といつて、子熊ははちを、花の一杯さいてゐる、だれも知らない、谷間へつれて行つてやりました。



 あるところに一人のおぢいさんがありました。おぢいさんはきのふの晩から歯が痛くて仕方がないので、ほつぺたを繃帯ほうたいしてお医者に行かうとしましたが、おぢいさんは貧乏なものですから、一銭もお金がないのでした。しかしどつかに、一銭ぐらゐおちてゐるかも知れないと思つて、家中うちぢゆうの敷物をめくつて、板のすきまをほじくつて見ましたが、一銭もみつかりません。こんどは、うちのまわりに積んであるわら束をひつくり返して見ました。すると、にはとりの卵が二つみつかりました。おぢいさんは、近眼の上に、あまりお金がほしかつたものですからその卵が十銭銀貨二枚に見えました。おぢいさんは大喜びで、それをポケツトに入れて出掛けました。
 途中で、おぢいさんは、ピイ/\鳴くひよつ子の声を聞きました。びつくりして見ると、ポケツトの中から黄色い小さいひよつ子が首を出してゐました。おぢいさんは、いつの間に、ひよつ子がポケツトの中へはいつたのだらう、もしや、食ひしんぼのひよつ子に、十銭銀貨をたべられると大変だと思つて、ポケツトをはたいて見ましたら、案の定、十銭銀貨の影も形もありません。
「ひよつ子や、お前たち、十銭銀貨を一つづゝ食べたらう?」とおぢいさんは聞きました。
「いゝえ、おぢいさん、私たちは生れたばかりですから、そんなかたいものはたべられやしません。」とひよつ子は答へました。
「食べないと言つたつて、入れたものがない以上食べないはずはない。」とおぢいさんが言ひましたので、ひよつ子たちは悲しくなつて、ピイ/\やかましく泣きました。
 その声を聞いて、一人のおぢママうさんがやつて来て言ひました。
「おぢいさん、どうかそのひよつ子を二十銭で売つて下さい、丁度こゝに十銭銀貨が二枚ありますから。」そして、おぢやうさんはおぢいさんにお金をわたして、ひよつ子を持つて行つてしまひました。
 おぢいさんはおぢやうさんにもらつたお金を持つてお医者様に行きました。そして、さつきの事を話して、「なぜ、ひよつ子のたべた二枚の十銭銀貨が、いつの間にかあのおぢやうさんのお財布のなかにはいつてゐたのでせう。」と申しました。歯のお医者様は笑つて言ひました。「おぢいさん、あなたはのお医者へも行かねばなりませんね。」と。



〈ピツコロさん〉




町のからす 「ピツコロさん。こゝは町の真中まんなかですよ。泣くんなら、横丁へはいつてお泣き。」
ピツコロ 「よけいなことを言ふな。だけどみんなおれの顔をみて笑つてる。少し恥かしいな。では、横丁へいつて泣かう。」


ピツコロ 「なほ悲しくなつて来た。どうしてこんなに涙がでるのかしらん」
横丁の猫 「ピツコロさん。小さいおぢいさん。おとなのくせにみつともないよ。なくなら、たれもゐない所でおなき。わたしまで、泣きたくなるよ。へん(くすりと笑ふ)。」
ピツコロ 「うん。さういはれゝばさうだな。ぢや、あつちへ ゆかう。」


百姓 「今年はお米が沢山とれて何よりだ。これも神様のお恵みだよ。」
百姓の妻 「さうだよ。だけどお前さん。今年ばかりよくても、来年悪ければつまんない。わたしはさう思ふと、いやになるよ。おや。たれか泣いてるよ。」
百姓 「お前はいつもそんなつまらないことをいふね。不信心者だよ。」
ピツコロ 「これはしまつた。たれかゞ来た。又追つ払はれるだらうな。」
百姓 「おい。お待ちよ。」
ピツコロ 「すみませんな。わたし、今、泣いてをりますので。」
百姓の妻 「悲しいんかい。」
ピツコロ 「えゝ。悲しくてたまりません。」
百姓 「どう言ふわけだよ。」
ピツコロ 「さつぱり分りませんな。町のからすだの、横丁の猫だのに追つ払はれましたよ。」
百姓の妻 「さうでせうともね。お前さんのやうな年寄がないてるとをかしいからね。」
百姓 「だけど、何か、わけがあつて、泣いてるんだらう。さうだらう。」
ピツコロ 「さうでせうな。」
百姓 「さうでせうなとは何だ。よくお考へ。」
ピツコロ 「わかるでせうかな。」
百姓 「きつとわかるよお考へ。」
ピツコロ 「はてな。けさ、うちをとびだしたと。隣の桶屋のやかましい音が、しやくにさわつたんだつけな、実に、しやくにさはる。考へごとも何にもあつたもんぢやない。はい。わたしは、年寄の学者ですからな。それから、町の真中で新しいうちを持つてあるいてる、家売の象から、うちを一軒買つたつけな。それを、静かな町のはづれへ建てたんだつけね。そして、そのなかへはいつて、本をあけた――と、これはしまつた。大変だよ。わかつたよ。なぜ 私が泣いてるわけがわかつたよ。ちよつと、一しよにきておくれ。」
百姓の妻 「お前さん気がちがつたのかい。」
ピツコロ 「正気です。今、やつと正気にかへつたんです。」
百姓の妻 「わたしは、穀物がくさるやうな気がいて心配だから、こゝで番をしてるよ。」
百姓 「馬鹿をいふな。おいで。」


百姓の妻 「どこだよ。お前さんのうちは。」
ピツコロ 「はてな、どこだつけな。わたしは少し目がうすいんでな。」
百姓 「これぢやないかな。新しいうちだよ。」
ピツコロ 「あゝ。これだ。これだ。どうぞおはいり下さい。」
百姓の妻 「へえ。何ですかい。」
ピツコロ 「おはいり下さいと申すのに。(その時、桶をたゝく音が、隣からひゞいてくる。)これは大変。又、涙がでゝくる。」
百姓 「お前さん。そゝつかしやだね。あゝ、又、桶屋の隣へうちをもつて来たね。」
ピツコロ 「あつ。さうだつたよ。お前。それだから、泣いてたんだよ。さうだつたよ。目がうすくて、せつかちでな。」
百姓 「それは、お前さんのつみだね。」
ピツコロ 「さうですよ。さうですよ。」
百姓 「それがわかれば泣くことなんぞない。手つだつてあげるから、早速ひつこしをなさい。」
ピツコロ 「よくわかりましたよ。もう、ほら、こんなに、にこ/\笑つてますよ。」
百姓の妻 「ほんとにわたしも楽しくなつたよ。」


ピツコロ 「わたしはこのうちの主人だよ。」
百姓 「さうですよ。なか/\よくなりましたね。」
町の鴉 「おや、ピツコロさん、こゝですか。時々遊びに来ますから、顔を覚えてゝ下さい。」
横丁の猫 「わたしも来ますよ。」
ピツコロ 「これでやつと楽しくなつたよ。おや皆来たまへ、もう泣かないから。」
百姓 「今年は豊年で、こんな嬉しいことはないよ。」
百姓の妻 「さうだよ。来年も働かうね。」
ピツコロ 「その時は、わたしもお助けしような。では。さよなら。」
百姓
     「さよなら年寄の学者さん。」
百姓の妻



ひつじさんと あひるさん



 あひるさんのうちの きんじよに、ひつじのやうふくやさんがありました。あひるさんは、がくかうからかへると、まいにち、ひつじさんのおみせへいって、ひつじさんが、ミシンでやうふくをぬふのを、みてゐました。
 ひつじさんは、あひるさんが、まいにちきてうるさいので、おしまひには、あひるさんが、はなしかけても、へんじをしなくなりました。
「をぢさん、このきれ、なんていふの。」ときいても、
「をぢさん、ぬひめがまがってるよ。」といっても、ひつじさんは、だまってミシンをかけてゐました。
 あひるさんは、はらがたってたまりません。みちばたから、こいしをひろってきて、ミシンの上にそっとおきました。
 ひつじさんは、あひるさんの方もみないで、そのこいしを、ぽんと、そとへすてました。
 あひるさんはすぐ、木のはを、ひろってきて、ぬってゐるやうふくのうへへ、ばらまきました。ひつじさんはだまって、やうふくブラッシで、はらひおとしました。
 あひるさんは、こんどは、木のきれをもってきて、ひつじさんのおひげや、せなかや、あしをつつきはじめました。
 すると、みるみるうちに、ひつじさんのかほのいろがかはって、
「いたづらあひるめ、もうゆるさないぞ。」
といふと、ぬひかけのやうふくをはふりだして、あひるさんをおっかけてきました。
 あひるさんは、どんにげました。そしてやっと、おうちへ、かけこみました。
「おかあさん、ぼく、いま、へんなひつじさんにおっかけられたの。そこで、つかまりさうになったの。」とあひるさんは、いきをきらしていひました。
「さうかい、よくきをつけないと、わるいやつがゐるから。」とおかあさんは、あたまをなでてくださいましたが、あひるさんのむねは、いつまでもどき/\してゐて、
「これおやつだからおあがり。」と、くださったおくわしも、のどにとほりませんでした。
 やうふくやのひつじさんは、やっぱり、まいにち、ミシンをかけてゐましたが、もう、あひるさんはこなくなりました。しかし「やれ、やれ、せい/\した。」とおもったのは二三にちのあひだで、なんだかやっぱり、あひるさんがこないと、さびしくなってきました。
 あひるさんは、がくかうのゆきかへりに、ひつじさんのおうちのまへをとほりますが、ちひさくなって、わきをむいて、こそ/\とほりますので、よびとめることもできません。
「あひるさんや、あひるさんや。」と、おほきなこゑでよびますと、あひるさんは、カバンをかかへて、どん/\にげていってしまひました。
 ひつじさんは、がっかりしましたが、そのうちにとてもきれいなやうふくを一まいぬって、あひるさんのうちへとどけて、またあそびにくるやうに、おかあさんにたのみました。そして、
「そんなに、ミシンがすきなら、おでしにして、あげよう。」といひました。
 それから、あひるさんは、ひつじさんのおでしになって、じやうずなやうふくやさんになりました。



一人 二人



一人、二人、
ようふくさん が はいる
ようふく きてるから
ようふくさん。

三人、四人、
おくつさん が はいる
おくつ はいてるから
おくつさん。

五人、六人、
ぼうしさん が はいる
ぼうし かぶつてるから
ぼうしさん。

七人、八人、
おかつぱさん が はいる
おかつぱ に してるから
おかつぱさん。

九人、十人、
じてんしやさん が はいる
じてんしや に
のつてるから
じてんしやさん。
子供に数をかぞへさせる練習のために。



プリンス・アド



 美しいプリンスは、お名をアドとおつしやいます。いつも真黒まつくろなビロードの服に、まつかなマントを背にかけて、三人のおもちやの兵隊を、おつれになつて、森のなかをあるいていらつしやいます。三人の兵隊は、アドの家来で、レクとメツツと、テルといひます。
 ある日、アドが、その三人の兵隊をつれないで、たつたひとりで森のなかへはいつてゆきますと、一人の若い男にあひました。その男は、アドを見ると、いきなりアドの前に倒れてしまひました。アドは、おもひやりの深いプリンスだつたので、その男を抱きあげて、
「どうしたのだ。どうしたのだ。」と言ひながら、感じ入つてボロ/\涙をながしました。それをみると、その男は、大声でわあ/\ないてしまひました。
「どうしたのですか。ね。どうぞ言つて下さい。」とアドは、頭をさげて、たのむやうに申しました。その男は、急に元気になつて、パつととびおきて、ひざのどろをはらひながら、
「あなたは、あの有名な、アド様ですか。」と申しましたので、アドは目を輝して、にこにこして、その男をだきしめました。その男は、
わたしには、一人の妹がございます。それがこの森の奥の、お城に住んでゐる大男に、とられてしまつたのです。どうぞ助けて下さい。」と申しました。
「ふうん。いや、よろしい。助けてあげよう。安心おし。」
とアドはきつぱり言ひました。
 自分のお城に帰つたアドは、三人の兵隊をお呼びになつて、今日の出来事をはなしますと、
「え。え。私がをりますれば、それ位のことは。」と、三人はめいめいにゐばりながら、そこら中をとんであるきました。その晩、ねどこの中で、アドが、
「おもしろいことになつたぞ。」と言ひますと、レクと、メツツとテルは、一度に、
「そんな大男なぞは、足の先でけとばせらあ。」と申しました。
 夢中になつた四人は、すつかり寝入つてをりますのに、こんなにねごとで話をした程でございました。
 あくる朝早く四人は、お城をでて、いよいよその大男のお城に参りました。四人は少し足がふるへましたけれど、かまはずどんどんそのお城にはいつて行きますと、大男は丁度自分の部屋の、正面の椅子いすにこしをかけて、こちらを見てをりました。背は雲つく程高く目はさらのやうで、手はごばうを五本よせたやうでした。四人は、刀も、鉄砲ももつてくるのを忘れてしまつたので、がた/\ふるへました。
 けれども勇気のあるアドは、大男に、
「お前は、若い男の妹をぬすんだらう。それを僕たちはとりかへしに来たのだ。」と申しますと、大男はおこつて、どなりました。
「何だ。おもちやのくせに。火にくべてしまふぞ。なまいきなやつだ。」と言つて指の先でアドをつりあげました。アドは握られたまゝ、
「ねえ。大男。そんなに僕をいぢめないで、あの妹を返しておくれよ。」
と申しますと、下でそれをきいてゐたレクは、丸い目をぎよろつかせて、申しました。
「ねえ。プリンスと、妹を返しておくれ。」
 それをきいた大男は、レクをつかみました。
 そこで、メツツは、ふるへながら、
「ねえ。プリンスと、妹と、レクを返しておくれよ。」と申しますと、大男は、又メツツをつかみあげました。あとにのこつたのはテルだけでした。テルは勇気をふるつて、
「ねえ。プリンスと、妹と、レクと、メツツを返しておくれよ。」と、いきなり、大男のひげにとびついて、鼻をよじあがつて、
「ねえ。僕たちは、ちつとも悪くないのだよ。僕たちは、たつたおもちやじやないか、ねえ君もいゝ人になつておくれよ。」と申しますと、大男は、にはかに目をしよぼしよぼさせてゐると思ふと、突然、大きい涙をぼろ/\流して、
「あゝおれが悪かつた。お前たちは何ていゝ人間だらう。あの娘は、すぐ返してやらう。」といつて、四人を、丁寧に、床の上におろしてくれました。
 門の所でまつてゐた若い男は、自分の妹をつれた四人をみると駆けてきて、抱きあひました。アドは、手をふつて歩きながら、
「面白かつたね。」と申しますと、三人の兵隊は、急に気をつけをして敬礼をしながら、
「はあ。おつしやる通り、なか/\面白うございました。」
と、まじめな顔で申しました。
 六人は、うれしさうに、はねたり、おどつたり、歌をうたつたりして、帰つて参りました。



バウシ ノ ユクヘ



 ボンコチヤントイフ赤イリボンノツイタカハイイバウシガアリマシタ。ボンコチヤンハモンコチヤントイフ女ノ子ノバウシデシタ。
 モンコチヤンハ大ヘンモノヲ大切ニスル子デシタカラ、イツモ、ボンコチヤンヲブラツシデ、テイネイニハイテ、テイレヲイタシマシタ。ソレデ、ボンコチヤンハイツモ、アタラシイ時ノヤウニ美シウゴザイマス。
 トコロガ、ボンコチヤンハモンコチヤンヲアマリスキマセンデシタ。ナゼトイツテ、モンコチヤンハマダ九ツデ、イタツテ小サイ子ダツタシ、ボンコチヤンハナルベク、セイノタカイ人ノアタマニノツカリタカツタカラデス。ソレデ、ボンコチヤンハイツモ、モンコチヤンノアタマニイヤイヤノツカリマシタカラ、アマリニアヒマセンデシタ。モンコチヤンハソンナコトハシリマセンカラオホトクイデス。
 モンコチヤンノオウチニワンコチヤントイフ犬トニヤンコチヤントイフネコガヲリマシタ。
 ニヤンコチヤンハオシヤベリデシタカラ、アルヒ、モンコチヤンニイヒマシタ。
「モンコチヤン アナタガボンコチヤンヲカブツテヰルカツカウハトテモヘンダワ。」
 モンコチヤンハホントニカナシユウゴザイマシタカラ、ワア、ワアナキマシタ。ワンコチヤンハソレヲキイテ 一シヨニカナシクナツテ、ワン、ワンナキマシタ。
 モンコチヤントワンコチヤンノナキゴヱヲキイテ、オ母サンハ、キツト、ワンコチヤンガモンコチヤンニホエツイタノダラウトオモヒマシタ。ソシテ、
「ワンコヤ、イタヅラシテハイケマセン。」トワンコチヤンヲシカリマシタ。キノドクナワンコチヤンデスネ。
 デモ、オ母サンハモンコチヤンニモ、ワンコチヤンニモ、ニヤンコチヤンニモ、ソレゾレオイシイオ菓子ヲ下サイマシタ。
 ソレカラトイフモノ、モンコチヤンハボンコチヤンヲケツシテカブラナクナリマシタカラ、オ父サント、オ母サント、オ姉サントオ兄サンハモンコチヤンニカウイヒマシタ。
「モンコチヤン、チツトモオカシクナイカラボンコヲカブリナサイ。」
 モンコチヤンハボンコチヤンヲシブシブカブリマシタ。ボンコチヤンハボンコチヤンデイヤイヤモンコチヤンニカブサリマシタカラ、ソレハソレハオカシクミエマシタ。オ姉サントオ兄サンハ思ハズ、オナカヲカカヘテ笑ヒマシタ。
 モンコチヤントボンコチヤンハ恥カシイヤラ悲シイヤラデ、メチヤ、クチヤニオコツテシマヒマシタ。ソシテ、モンコチヤンハジブンノヘヤニカケコンデシマヒマシタ。
 ボンコチヤンハ、オゲンクワンカラ、ソトヘカケダシテイツテシマヒマシタ。
 モンコチヤンノオ父サン、オ母サン、オ姉サン、オ兄サンハビツクリシマシタガ、ドウスルコトモデキマセンデシタ。

 モンコチヤンハイクラオコツテヰテモオウチノ中ニヰルカライイヤウナモノノ、クライ夜道ヲ一人デトンデイツタボンコチヤンハ、モウ、ケツシテ、オウチヘカヘツテコラレナイデセウ。モンコチヤンノオ父サンハボンコチヤンガカハイサウニナリマシタカラ、クワイ中電燈ヲモツテ、ワンコチヤンヲツレテ、ボンコチヤンヲサガシニユキマシタケレド、アタリハマツクラ。ドウシテモ、ボンコチヤンヲミツケルコトガデキマセンデシタ。
 ボンコチヤンハウチヲトビダシテ、アツチコツチヲアルキマシタケレドモ、ツカレテ、ダンダンネムクナリマシタノデ、自転車ニノツテ、ホテルヘユキマシタ。ホテルノボーイサンハボンコチヤンガトテモ美シカツタノデトテモヨイオ部屋ニアンナイシテクレマシタ。
 ボンコチヤンハフカフカシタアタタカイベツドノ中ニハイリマシタケレド、ドウニモヘンテコデ、ネムレマセンデシタ。デ、カベノバウシカケニブラ下ツテ、グツスリネムリマシタ。
 アクル朝、ボンコチヤンハ、ボーイサンニ「バウシノオ父サン」ノオウチヲキイテ、トコロトバンチヲカイテモラヒマシタ。
 ボンコチヤンハ電車ニノラウトシマシタケレド、イツパイノマンイン電車デ、ドウシテモノルコトガデキマセン。シカタナク、電車ノ屋根ニヨヂノボリマシタ。オオ、ソノサムイコト。ボンコチヤンハエリマキモ外タウモキテヰナカツタノデ、ハクシヨン、ハクシヨン、ハクシヨントクシヤミガツヅケサマニデマシタ。
 ボンコチヤンハ、ボンコチヤンヲコサヘテクレタバウシヤサンノ「バウシノオ父サン」ノ所へ行キマシタ。オヂイサンハボンコチヤンノクシヤミガドウシテモ、トマラナイノデ、町デ、有名ナ「モノシリウササン」トイフ、オイシヤサマヲヨビマシタ。オイシヤサマハヨクヨク、シンサツシテ、ソレカラ、
「ボンコチヤン、アナタノ病気ハモンコチヤンノ所ヘカヘレバスグナホリマス。」トイヒマシタ。
 ボンコチヤンノクシヤミハモツトモツトヒドクナリマシタ。アマリクルシイノデ、ボンコチヤンハオイシヤサマノイツタヤウニ、ビヨウキガナホルノナラ、モンコチヤンノオウチヘカヘリタイトイヒマシタ。オヂイサンハ大ヘンヨロコンデ、ボンコチヤンノリボンヲ前ヨリモモツトモツトキレイナノニトリカヘテ、キレイナ桃色ノ箱ニイレテ、空色ノリボンデソノ箱ヲシバリマシタ。
 ソレカラ、オヂイサンハ、ソノ箱ニモンコチヤンノオトコロトナマヘヲカイテ、郵便局ニモツテイツテ、切手ヲハリマシタ。局ノ人ガソレニポンポント消シ印ヲオシマシタ。
 郵便配達ノダテウサンハ、キシヤヨリモハヤクカケテ、ソレヲ、モンコチヤンノオウチヘトドケマシタ。
 ボンコチヤンハモンコチヤンノトコロヘ カヘツテ来ルト、スグニ、クシヤミガトマツテ、モトノヤウニ元気ナボンコチヤンニナリマシタ。ミナサン、ナゼダカオワカリニナリマスカ。ソレハ、ハジメニモ申シ上ゲタ通リ、モンコチヤンハ大ヘンモノヲ大切ニスル子デスカラ、ボンコチヤンニツイテヰタホコリヲ、テイネイニブラツシデハイテヤリマシタカラ。
 ボンコチヤンハモンコチヤンヲイヤダナンテオモツタコトヲ心カラコウクワイイタシマシタ。ソシテ、モンコチヤンノアタマニデキルダケカツカウヨクカブサリマシタカラ、ソレハソレハヨクニアフヨウニナリマシタ。
 アマリヨクニアフノデ、オ母サンハ山羊ヤギノ写真ヤサンヲヨンデ、キネンノ写真ヲトツテモラヒマシタ。ドンナニウツツタデセウ。見タイ方ハ裏表紙ヲゴランナサイ。

モンコチヤンノ写真

 ケンシヤウ
モンコチヤンハ ダレニ シヤシンヲ トツテ モラヒマシタカ。
オコタヘハ クワンセイ ハガキ デ コドモノクニ ヘ 五月十五日マデニ ハツペウハ 八月号ノ コドモノクニ
「裏表紙」のキャプション付きの図
裏表紙



ポックリ キノクツ



ポックリ キノクツ
ポックリコ
「コーヒー オクレ」
ポックリコ

ポックリ キノクツ
ポックリコ
「イヤ イヤ ヤレナイ」
ポックリコ

ポックリ キノクツ
ポックリコ
「ナゼ ナゼ クレナイ」
ポックリコ

ポックリ キノクツ
ポックリコ
「ヤレバ ナクナル」
ポックリコ

ポックリ キノクツ
ポックリコ
「クレナキヤ オツカケ」
ポックリコ

ポックリ キノクツ
ポックリコ
「ソレハ コマツタ」
ポックリコ

ポックリ キノクツ
ポックリコ
ポックリ ポックリ
ポックリコ



迷子ノジヤガイモ



 玉ネギサンハヱカキサンデンタ[#「デンタ」はママ]。ソママデ、田舎ノ景色バカリカイテヰルノニアキテ、街ノシヤセイヲシヤウト思ツテ、街ニキマシタガ、田舎者ノ玉ネギサンハ道ニマヨツテシマヒマシタ。
 交番ニユキマスト、カワイラシイ女ノ子ノオマワリサンガヰテ、帳面ヲシラベテクレマシタガ、サツパリ玉ネギサンノスンデヰル村トイフノガ分リマセンデシタ。
「玉ネギノヱカキサンナンテキイタコトガナイ。」コレニハ玉ネギサンモコマリマシタ。ケレドモ、フシギナコトガアレバ、アルモノデス。ヒヨツコリソコヘ、洋服ヲキタ、ジヤガイモ紳士ガキマシタ。玉ネギサンノ友達デス。ソシテ、モウシマシタ。
「ホントニ、コレハヱカキノ玉ネギデス。」ケレドモオマワリサンハ、
「ウソデス。ウソデス。ソンナ、ウソヲツクヤウナ玉ネギヤ、ジヤガイモハ、デキソコナイダラウ。」トモウシマシタノデ、二人ハ、ハラガタツヤラ、ハヅカシイヤラデコマツテシマヒマシタ。
 二度目ノフシギガオコリマシタ。ムカフカラ、玉ネギサンノ村ノオマワリサンガハシツテキマシタ。シンセツナガテフサンデス。玉ネギサンガ迷子ニナルカモシレナイトオモツテ、アトカラ、オツカケテキタトコロデス。
「ホントニ、コノ玉ネギサンハヱカキサンデス。」アヒルノオマワリサンガカウイツテクレタノデ、玉ネギサント、ジヤガイモサンハ、ドンナニウレシカツタデセウ。
「マア、ホントデスカ? 人間ノナカデモ、ソンナニ、利口ナ子供ハ、アマリイマセンヨ。」
 女ノ子ノオマワリサンガ、カウホメテクレタノデスカラ。



耳長さん と あひるさん



 ある朝のことです。耳長さんが、一人でランニングのおけいこをしてをりますと、一匹のあひるさんが、そばへやつて来ました。とても、ずるい、小さな、真白まつしろいあひるさんです。そして、耳長さんに言ひますのに
ぼく、とても面白いあそびを知つてんだよ。」
 そこで、耳長さんは、気が弱いのに、何でも知りたがるくせがあるので、早速その話にのつて、目を丸くして言ひました。
「何? 面白いあそび?」
「ボタン遊びさ。」と、あひるさんが勿体もつたいぶつて答へました。
「ボタン遊びつて、僕知らないよ。教へてね。」と、耳長さんはあひるさんの手を引つぱりました。
「とてもやさしいの。そして、勝つた方が、ボタンをもらへるの。」と、あひるさんはボタン遊びを、耳長さんに話してやりました。耳長さんは、すぐ勝てるやうな気がしました。そして山程勝つたボタンをもつてかへつたら、お母さんがどんなに喜ぶだらうと思ひました。
「いくつボタンおうちから持つてくればいゝの?」と耳長さんが聞きましたら、あひるさんは
「家から取つて来なくたつて、ホラ、ここにあるぢやないか。」と言つて耳長さんの洋服についてゐるボタンを引きちぎりました。耳長さんは、なる程、いゝ考へだと思つて、大喜びで、それを出して遊びましたが、負けてしまひました。耳長さんはがつかりしました。
「今度は、キツト君が勝つよ。」と、あひるさんが言ひますので、耳長さんは又その気になつて、ボタンをちぎつて出しました。そして、着物についてゐるボタンは一つのこらず負けてしまひました。
 あひるさんは、勝つたボタンをザラザラとポケツトに入れて「グツドバイ、バイ。」と言つて飛んでつてしまひました。
 おうちへ帰りましたら、耳長さんは、さんざんにお母さんにしかられました。
「早くベツドへ行つておやすみ。母さんがボタンをつけといてあげますから。何てお前さんはお馬鹿さんだらう。明日あした、学校の先生にさうお話ししなくちやなりません。」
 耳長さんは心配でたまりません。お母さんは明日学校に行くと言つてゐるのですから。悲しくてピーピー泣いてゐました。その声をきいて、ずるいあひるさんが窓の外からのぞき込んであかんべをいたしました。耳長さんはベツドの中へもぐり込んで涙だらけになつて決心しました。
「もう、あんなつまらない事はしまい。」と。
 それからは、耳長さんは、あひるさんに出あつても決して相手になりませんでした。



木馬



走りますよ
おぼつちやん、
ピーとなつたら
はしりますよ。

おめゝのなみだを
おふきなさい、
おはなのなみだも
おふきなさい。

はしりだしたら
とまりませんよ、
ピーとなるまで
とまりませんよ。

おてゝのおくわしを
おすてなさい、
おくちのおくわしも
おすてなさい。

走りますよ
お坊つちやん、
ピーとなつたら
はしりますよ。



もしも、あめのかはりに



もしも、あめのかはりに
ねこだの
いぬだの
ねずみだのがふつてきたら
まあ、
どんなにおかしいでせうね。
そして、
それが、
いくにちも
いくにちも
ふりつづけたら、
まあ
せかいぢうは
ねこだらけ、
いぬだらけ、
ねずみだらけに
なるでせうね。



ユキ ノ トンネル



トンネル
トンネル
トンネルアケロ
ココハ天下ノ大通リ
山ガアツテハヂヤマニナル

トンネル
トンネル
トンネルホリハ
コツチガハカラ太郎ト次郎
向フガハカラ三郎ト四郎

トンネル
トンネル
トンネルホリノ
見物人ハ一子イチコ二三子フミコ
ポチモスワツテミテオイデ

トンネル
トンネル
トンネルアケロ
苦心ノ工事ダアセガデル
ドツチガ早イカ競争ダ

トンネル
トンネル
トンネルアイタ
ユキノトンネルモグツテ通リ
一番列車ダ ヤアシツケイ



雪のよる



ねえむい
ねむい
ゆきのよる
くうらい
のきばで
はとぽつぽ
ぽつぽとなけば
さみしいな。

とろとろ
ねむる
めがさめる
ぽつぽとないた
はとぽつぽ
どこへいつたか
さみしいな。



ライオンの大損



 ある秋の一日、一匹の威張り屋のライオンが森の中で、お昼寝をしてゐる間に、大切な、日頃ひごろ自慢のあごひげを、だれにとられたのか、それとも抜け落ちてしまつたのか、とにかく起きて、のどがかわいたので、水をのみに、ふら/\と川の方へ行く途中でくまに会ひますと熊は、ライオンをよく知つてゐるのに挨拶あいさつをしないので
「熊君、なぜ、挨拶をしない? 失敬じやないか」といつた時に熊は、やつと気がついて
「やあ、ライオン様でございましたか、昨日まで、お見受け致してゐた、あなたのあごひげがないので、ついお見それしたのです。御免下さい。」と答へましたので、ライオンは初めてひげがなくなつてゐることに気がついて、びつくりしたのです。そして大急ぎで、川へ行つて水に顔をうつして見ましたら、熊の言つたことはまつたく本当で、さつきまで、ピカ/\金のやうに、又ダイヤモンドのやうに光つてゐたあごひげがなくなつて、まるで自分の顔が馬鹿ばかに見えるのでした。
 ライオンはどこへ落したのか一生懸命に考へましたが、考へつきません。そこへ一匹のきりぎりすが通りかかりました。きりぎりすは大変立派なひげを持つてゐるのです。ライオンは、それを見て、ひげのことなら、きりぎりすに聞いたら分るやうな気がしたものですから
「どこかに僕のあごひげが落ちてゐなかつたか。」と聞きました。するときりぎりすは申しました。
「ああ、それなら僕は知つてゐます。あの森の入口に、落ちてゐたのを見ましたよ。」
 ライオンは森の入口へ行きました。するとそこには、毛の生へたとうもろこしが落ちてゐるばかりで、ひげなどは落ちてゐませんでした。
 それから一ヶ月ばかりたつたある日、ライオンがある古道具やの前を通りかかりますと、夢にも忘れることの出来なかつた自分のあごひげが、売物になつてかかつてゐるのをみつけました。ライオンは、そのうちの主人のたぬきに、かみつきたい位腹が立ちましたが、自分のひげと言ふことが分ると困るので我慢して、いくらだと聞きますと、たぬきは、ライオンがひげを落して困つてゐることを聞いて知つてをりましたので、いつもいじめられてゐる腹いせに
「一万円より以下ではお売りできません。」といひました。ライオンは仕方なく一万円出して買つて来て、川へ行つて、くつつけやうと致しますと、もうすでに、新らしいのが生えてゐたのです。ライオンは大損をいたしました。



ワタシハ ジヤガイモ



ワタシハ ジヤガイモ、
ジヤガイモニ シルクハツトハ
ドウデスカ。

ワタシハ ジヤガイモ、
ジヤガイモニ 長イステツキ
ドウデスカ。

ワタシハ ジヤガイモ、
ジヤガイモニ 毛糸ノカタカケ
ドウデスカ。

ワタシハ ジヤガイモ、
ジヤガイモニ 十文トモンノオクツハ
ドウデスカ。

ワタシハ ジヤガイモ、
ジヤガイモガ、マチヲアルイテモ
イイデスカ。