山村暮鳥詩集
山村暮鳥
雨がふる
雨がふる
さびしい雨滴でも聴かうか
いや、いや
さうだ
鞭つやうに
蹴るやうに
つよく、つよく
はげしく
つよく、はげしく
ふつてくれ
やまの
やまの
おくやまの
谿からでてきた
筏乗り
筏のうへの日や
ながかんべ
くわえ
煙管で
のんきだな
やまの
やまの
おくやまの
谿から出てきた
いかだのり
さとへのみやげか
岩躑躅
一枝
くれてゆくもんだ
いねかけ
ゆツさゆさ
雀の子どもがあそんでた
いねかけ
ゆツさゆさ
すずめのこどもが
喧嘩した
いねかけ
ゆツさゆさ
すぐまたなかよくしやべつてた
浪よ
浪、浪
ここまでおいで
浪よ
浪、浪
つかまへておくれ
どんと打つてくりや
そらにげた
浪よ
浪、浪
ここまでおいで
腹がたつたか
浪よ
浪
さつとひくとき
砂の小山をけちらした
おや雀
おや雀
もう日が暮れる
くらくなる
日がくれて
くらくなつたら
どうしよう
何処に行かう
ぼつちやん
わたしの巣をかへせ
子どもをかへせ
父よ
おいらも
行きてえな
大きな海のまんなかで
おいらも
鰹が釣つてみてえな
おいらも船にのりてえな
まつてろ
まつてろ
その腕が
樫の木のやうになるまで
からす
からす
巣にかへれ
峠の
時雨が
やつてきた
雀も
かへれ
竹藪へ
たうげの
しぐれが
やつてきた
たあんき、ぽーんき
たんころりん
たにしをつツつく鴉どん
はるのひながのたんぼなか
たあんき、ぽーんき
たんころりん
われもひとも生きもんだ
あんまりひどくしなさんな
たあんき、ぽーんき
たんころりん
鴉はきいても知らぬ顔
はるのひながのたんぼなか
きり
きり
つばめ
燕、どこいつた
わたしの目へ飛びこんだ
きり
きり
さへづつて
飛びこんだとおもつたら
もう
彼方をとんでゐた
あたしの
手套
桔梗色
雪のふる日は
おもひだす
なくした
一つの
手ぶくろよ
のこつた
一つの
てぶくろよ
とんび
ぴいひよろ
輪をかいてみせろ
泣く子はきらいだ
泣く子のうへの
たかいそらで
とんび
ぴいひよろ
ぐるりと大きな輪をかいて
泣く子にみせろ
千鳥のあしあと
小さいな
よあけの
渚にでてみたか
よあけの渚の
どんど波
波がわすれた
砂の上
ちどりのあしあと
かわいいな
うちの
鶏
こけこつこ
となりの鶏
こけこつこ
だんだん
あかるくなつてきた
みなさん
おはやう
こけこつこ
そうら、お日様でてきたぞ
のろいな
のろいな
なのはなの
はたけのなかをゆく汽車は
ひら
ひら
ひいら
あとからその汽車
追つかける
蝶々
さしたり
ひいたり
はるのしほ
はるの
ひながの
あをいうみ
ひよつこり
いそが
しづんだら
ぴよつこり
おふねが
うきだした
ぴよつこり
おふねが
ういたらば
ひよつこり
いそが
しいづんだ
いそと
おふねの
かくれんぼ
それを
みてゐた
かもめどり
かもめも
かもめで
かくれんぼ
ひよつこり
ういたり
しづんだり
山奥で
ついーん、ついーんと
ないてゐるのは
鶸の子
そのやまおくの
ほそみちの
ながいこと
ついーん、ついーんと
ないてゐる鶸の子
ふゆが
きたとて
木は裸
春に
なるまで
木は裸
ちらちら
雪が
ふつてきて
はなを
きものに
きるけれど
それが
消えると
また、裸
みなとの
はるのよ
あめもよひ
どこから
きたのか
ふながかり
みなとの
てんまに
ひがついた
ひとつ
ぽつちり
ひがついた
みなとの
はるのよ
あめもよひ
てんまで
あかごが
ないてゐた
昔、昔の
そのむかし
昔の話をきかさうか
ぢぢが
こどもの
そのころも
山には霧がかかつてた
森には小鳥がないてゐた
百舌鳥や
きいり きり
鉄砲ぶちにきをつけろ
あつちみろ
こつちみろ
もずや
きいり きり
枯草山に火をつけろ
きれいな
きれいな
雪だこと
畑も
屋根も
まつ白だ
きれいでなくつて
どうしませう
天からふつてきた雪だもの
どんより
雪空
ピアノの
音……
ふわふわ
ふわふわ
雪女郎
小女郎
ピアノの音から
まひだして
ピアノがやんだら
消えちやつた
よしきり
こきり
葭がゆれても
とびだすな
なんでもないぞ
河風だ
よしきり
こきり
葭の笛をふいてみせ
葭の笛ができたらば
おらにも
一つくれないか
底本:「日本児童文学大系 第一四巻」ほるぷ出版
1977(昭和52)年11月20日初刷発行
入力:菅野朋子
校正:noriko saito
2011年1月10日作成
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